ユニクロがマネできない領域はここだ!アパレルの競争戦略とDXを成功に導く方法とは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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四則演算と論理思考が弱いアパレル業界

bee32/istock
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良い事例なので、一緒に計算してみよう。ユニクロの売上を約2兆円とすると、その半分が仕入の概算値だから、毎年約1兆円の仕入をしていることになる。今、日本の生産は、点数ベースなら2%98%が海外。金額ベースだと、約20%が日本で80%が海外である。したがって、日本のアパレルの製造コストは、海外の約12.25倍ということになる(まず、この簡単な計算をしている人を見たことがない)。

点数は10億点と仮定
国内仕入額 海外仕入額
金額ベース(100万円) 200,000 800,000
点数ベース(100万点) 20 980
1点単価(円) 10,000 816
コスト差 12.25倍

このように、競争戦略とは、①真似できない②真似すると損をする③真似するのが難しい、のいずれかにあたらなければならず、このケースでいえば②となる。戦略系ファームに入る人であれば、入社前に必読書として「競争の戦略」(マイケルポーター)を読み、この程度のフレームワークは頭にいれておくべきだが、こうした簡単な四則演算さえやっていない。

実際、Tokyo baseは上代が3万円から5万円。しかも、原価率が50%だと公言している。また、Tokyo baseの売場にゆけば、彼らが「コンテンポラリー・モード」(都会的なファッション性を極端に打ち出す服)であることは、みればわかる。おそらく、Tokyo baseの服は、東京の投資銀行、コンサルファーム、商社、広告代理店などに勤めるヤング・プロフェッショナルがすかした自分を打ち出すために着飾るふくではないかと想像がつく。だから、郊外や田舎で売る服ではないと思う。逆に言えば、中国で売れる理由はよくわかる。成金の若者は、こうした「若くして成功した人間」の印を欲しがっているからだ。これを、ユニクロに限らず、日本のアパレルがやるには、彼らのビジネスモデルを根本的に変えなければできない。

これに対して、多くの企画部では最初からいきなり子細細部に入り、小数点が違うとか、数字の精度に拘り、実際に店に出向かない。また、役員会で話す内容もこうした重箱の隅をつつくような話しばかりで、全体を大きく俯瞰した視点からの発言はほとんどない。

オックスフォード大学が、日本の労働人口の49%がAIやロボット等で代替可能と断じた理由はよくわかる。大企業に勤めている人は、吹けば飛ぶような中小工場が不要になると勘違いしているようだが、そうではない。日本の製造業の生産性は世界と比べても負けておらず、全く足下にも及ばないのは、こうした、目的のないPowerPointを朝から晩までつくっているホワイトカラーだ。彼らが真っ先にAIに置き換わるのである。 

戦略とは、彫刻のように、まずは緩やかでもよいので全体像を組み立て、徐々に細部に入ってゆくものだ。最初から細部に拘りどうでも良いところに力を入れるから、日本のホワイトカラー、特に大企業の生産性はおそろしく低い。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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