ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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みんな誤解している、ユニクロ「リードタイムを短くする」の真意とは

北京のユニクロ店舗
2021年 ロイター/Florence Lo

 「消費者が必要な商品を必要な量だけ販売する」と言っているのはあのファーストリテイリングも同じだ。211014日に行った期末決算発表で、「有明プロジェクト」の責任者である田中大・グループ執行役員は繰り返し、「これからは素材を備蓄し、生産リードタイムを短くする」を語っていた。
しかし、彼の使っている「リードタイム」という言葉は厳密には、「縫製リードタイム」だ。https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning.html 
「縫製リードタイム」と、「生産リードタイム」の違いを理解している人はほとんどいない。リードタイムの起点は、「リスクを持つとき」だから、素材を確保した時点で計測タイムがはじまり素材の備蓄などしたら、生産リードタイムはこれまで以上に長期化することを分かっていない。田中氏は、トレンドリードタイムを短くしようとしているわけで、素材の備蓄をすれば「生産リードタイム」は、私が言うように長期化する。

田中氏は、コンサルティング会社出身だから、こうした「アパレル村の」常識を知らないのだろう。私は、「アパレルが直貿を増やすのは原価を下げるためでない。素材を自ら備蓄し、工場の生産ラインを買い取り、トレンドを追いかけるなら『縫製リードタイム』を短くせよ」、とあちこちで説いてきた。これこそが、プロパー消化率80%を超えるZARAMDの秘密である。そして、(素材を含めた)「生産リードタイム」を長く持つ一方で、キャッシュ・コンバージョンサイクルを短くしたければ、素材と工場ラインをあらかじめ確保し、商社金融を活用した上で、素材や生産ラインの固定費を一時的に商社に持たせ、投入時期に金利と口銭をつけて支払えばよい。こうすれば、生産リードタイムを必要な時間だけとり、かつ、アパレルはこれまでのように、締め、支払いで収支ズレ(キャッシュアウトとキャッシュインの期間ズレ)を30-60日程度にしてしまうことも可能なのだ。

ファーストリテイリングの田中執行役員がいっているのは結果的に、私が提唱するZARA型MDと全く同じ考え方となり、素材や生産ラインを確保して、トレンド情報を世界中から集めて「縫製リードタイム」を短縮化するというものである。この業界の悪しき伝統に染まっていないから考えつく発想なのだろうが、一般のアパレル村の住民は、「ああ、あのユニクロまでリードタイムを短くしているのか」と、よりドタバタ騒ぎを繰り返すだろう。
工場の生産ライン確保はそれほど難しいものではない。例えば、工場はシェアが高まれば、得意先のいうことを聞く。そんなことは、天下のファーストリテイリングにとってわけない芸当だが、逆に、いままでそれをやってこなかったのかと思うと、そちらの方が驚きだ。さらに、素材の備蓄もこわくない。まず、天然繊維にしても化合線繊維にしても、保存状態がよければ3年から5年は劣化しないし天然繊維などはむしろ風合いがよくなるぐらいだからだ。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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