第4の柱はeコマース? ウォルマート・イノベーション(上)

2013/07/30 00:00
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 こんにちは。『チェーンストアエイジ』誌編集長の千田です。

 さて、明後日発売の『チェーンストアエイジ』誌8月1日・15日合併号の特集は「46兆円企業の次期成長戦略 ウォルマートは何を考えているのか?!」です。

 今年、6月の米国取材を丸ごと凝縮したものです。米国ウォルマート事業のビル・サイモンCEO(最高経営責任者)、ウォルマート国際事業のダグ・マクミロンCEO、サムズ・クラブ事業のロズ・ブリューワーCEOに加え、次期成長の中核を担うであろうグローバルeコマース事業のニール・アッシュCEOに登場いただいております。ぜひ、お読みください。

  発売に先立ちまして、ここでは、同特集の拙文「カバーストーリー」を2日間にわたって掲載いたします。

 

“安泰期”に次のタネを撒く

 

 ウォルマートの歴史は、イノベーションの歴史である。

 1950年にバラエティストア「ベン・フランクリン」のフランチャイジーとして「ウォルトンズ・ファイブ・アンド・ダイム」を開業したことがその嚆矢だ。

 しかし、1店舗当たりの売上高の小ささに限界を感じた創業者の故サム・ウォルトンは、1962年、「ディスカウントストア」のウォルマートに乗り換えた。

 その後、ウォルマートは、次々と新しい事業を立ち上げては成功させていく。

 

 1983年。ソル・プライスが創業した「プライスクラブ」に範を取って、会員制ホールセールクラブの「サムズ・クラブ」を開発する。

 

 1988年。「ディスカウントストア」に「大型食品スーパー」を付加し、ひとつの建物の中で衣食住のフルラインを展開する「スーパーセンター」を開業。この2つのフォーマットは、2013年現在のウォルマートの根幹を支える事業となっている。

 

 注目したいのは、その開発時期である。まだまだ「ディスカウントストア」による成長余地が米国内に十二分に存在している“安泰期”に次期成長のタネを撒き、新しい事業として育成しているのである。

 現状に何ら問題がなさそうな時期に次世代成長に向けて、具体的に動くというウォルマートの経営は、故サム・ウォルトン以降も脈々と受け継がれている。

 

 たとえば、「スーパーセンター」が米国内市場で飽和することなど考えられなかった1998年には、大型スーパーマーケットの「ネイバーフッドマーケット バイ ウォルマート」を開発。2011年には、都市部への出店やドミナントの隙間をさらに埋めるためのコンビニエンスフォーマットである「ウォルマート エクスプレス」を開業している。

 

消費者を育成する

 

 次期成長のタネ撒きということでは、海外マーケットへの進出も早かった。

 

 1991年。メキシコに「サムズ・クラブ」を出店することからスタート。以来、さまざまな国への進出を開始し、現在は26カ国に6148店舗を展開。ウォルマートの第2の柱となる事業として確固たる地位を保持している。

 

 国際事業の特徴は、中産階級が続々と出現しそうな人口の多い新興国に、高度経済成長期以前に入り込み、事業のタネを撒くことだ。

 1996年に参入した中国しかり、インドしかり、そして2011年に南アフリカのマスマートを買収して本格参入を果たしたアフリカしかりである。

 

 ウォルマートの凄さを端的に現しているのはインドだ。ウォルマートは、インドのバルティ・エンタープライズとの合弁会社バルティ・ウォルマートを設立。2009年には現金取引で顧客が商品を持ち帰るキャッシュ・アンド・キャリー型の店舗1号店を出店。この1月期末現在で店舗面積5000~1万㎡の10店舗を展開するに至っている。

 

 2009年当時のインドは卸売業への流通外資参入は、認可不要だった。一方、「SONYショップ」のような単一ブランド製品を扱う小売業の直接投資(FDI)は上限出資比率51%まで可。ところが複数ブランド(マルチブランド)の商品を扱うウォルマートの基幹業態「スーパーセンター」のような業態にはまったく門戸が開かれていなかった。

 そこで、規制のない卸売業態で出店してきたわけだが、ウォルマートは規制緩和を見越し、マルチブランドを扱う小売業1号店の開設に向けて手を打った。

 

 ウォルマートが目を付けたのは「農業」と「農家」である。インドの70%以上の世帯は農業に従事しており、全消費の40%は農村部の需要である。ところが、サプライチェーンやコールドチェーン網が確立されていないことに起因して、その生産性は極めて低く、年間25~30%の野菜・果物が廃棄されていた。

 

 そこでウォルマートが乗り出したのは、その農業振興である。マイク・デュークCEO(最高経営責任者)は、2015年までに350万人の中小農家から農産物を直接調達すると早々に表明。農家の収入20%増を達成するために研修センターを設置し、100万人規模の教育の意向を示した。そして次の5年間で4万人の訓練を実施し、うち1万5000人を採用すると発表した。

 

 インドの農業発展に向けて、支援助成し、共同で近代化に取り組み、サプライチェーンを構築し、雇用を生み出す――。国家の発展に寄与するというアプローチで、市場開拓に乗り出したのだ。

 

 この流れは、中国で取り組んでいる「ダイレクト・ファームプログラム」で実践済みだった。主に農産物を対象に農家との直接取引をスタートさせ、参加する農家の収入アップを図り、農村部の経済発展に寄与するというものだ。

 

 ウォルマートは、海外市場への進出に当たっては、自社で中産階級すなわち同社の主要顧客になる消費者を自ら作り出したのである。
 

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