書籍のブームから20年……日本生協連に移籍した「生協の白石さん」の今

松岡 瑛理
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新型コロナ感染拡大が
移籍の転機に

白石昌則さん
生協連本部のロビーに立つ白石さん。コープ商品のあゆみが展示されている

 白石さんは1994年、信州大学経済学部を卒業し、早稲田大学生活協同組合に入協。10年ほど勤務したのち、東京農工大学の生協に移籍した。「ひとことカード」が世間の話題を集めたのもこの頃だ。
 
 当時、大学生協は地区ごとに事業連合があり、職員はおおむね、自身の所属地区内で異動や移籍をすることになっていた。白石さんの所属は東京地区で、『生協の白石さん』出版後も東京インターカレッジコープ渋谷店、法政大学生協、東洋大学生協と異動を続けた。
転機が訪れたのは20年。新型コロナウイルスの感染拡大によって大学での授業はオンラインに移行し、商品販売や運転免許の受付、食堂営業など、大学生協が実施する事業は一時停止に追い込まれる。経営面への打撃から大学生協はスリム化を余儀なくされ、ほかの地域生協や生協の連合会への転籍希望者を募ることになった。

 当時、すでに50代に突入していた白石さんは職員スタッフに対して、転籍の意思確認や集約を行う立場にいたものの、「多くの職員はキャリアを築いている最中で、手は挙がらないだろう。一方自分はキャリアが終盤に差し掛かり、面談で異動希望の部署を聞かれることもなくなっていた。冷静に考えれば、自ら名乗り出るのがちょうどいいんじゃないか」と思い直したという。

 地域生協に移る選択肢もあったが、最終的には日本生協連への移籍で話がまとまった。
日本生協連は、大学生協や地域生協などを含む単位の生協や、都道府県単位の連合会が会員として参加する全国連合会だ。会員生協の総事業高は約3.7兆円、組合員総数は約3000万人と規模も大きく、全国の生協と連携しながら社会制度の充実に向けた政策提言や、コープ商品の開発と会員生協への供給などを行っている。
 
 移籍後、白石さんは大阪府大阪市内に拠点を構える関西支所で営業部署に配属され、兵庫県全域と大阪府北部を主な活動区域とする「コープこうべ」に商品供給を行う「フィールドスタッフ」と呼ばれる職種に就いた。
 大学生協の在籍時代は商品を仕入れる立場だったため、雪害や道路事情などで到着遅延が生じると、取引先に「どうにかならないか」と言う立場にあった。それがフィールドスタッフになると、今度は自分が「どうにかならないか」と言われる立場になった。
「天候などの影響で物流に影響があると、コープこうべでは宅配注文を受けた商品が数千件、数万件単位で届かないこともある。組合員の皆さまに対する説明も非常に骨が折れるもの。物を受け取る側の認識や、納品の重要性について理解が深まった」と話す。

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