活況のフードデリバリー市場に北欧から現れた刺客・Wolt(ウォルト)の深謀

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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カスタマーサポートはあえて人力… 
「おもてなしフードデリバリー」が意味するところ

 当然、Woltも無策の丸腰で日本市場に参入したわけではない。同社は「おもてなしフードデリバリーサービス」を標榜するが、これは日本における戦略の方針を一言で表したものだ。つまり、従来の「レストランの味が手軽に家で楽しめるという利便性」のみを訴求するのではなく、そこに「徹底した顧客満足向上のための取り組み」を付加したということだ。

 その一環として、サービスエリアである各地域にオフィスを置き、カスタマーサポートを行うというのがWoltの特徴の1つだ。日本支社の第1号社員でマーケティングマネージャーを務める新宅暁氏は、「フードデリバリーはレストラン、配達員、お客さま、そしてそれを支えるシステムなどが複雑に絡み合うビジネス。どこかでエラーが1つ起きれば、配達の遅延につながる。そうしたエラーをいち早く改善し次は起こさないことが顧客満足度向上につながる」と話す。各所で起きる不測の事態にスピーディに対応するため、オフィスをローカルで設けることにこだわるのだ。

 また、お客からの問い合わせはチャットで受けるが、流行りのチャットボットではなくすべて人力で対応する。平均1分以内で担当者が返信する仕組みで、コストや労力はかかるものの、顧客満足向上のためには欠かせないものとしてこだわっているようだ。

 ちなみに、このチャットシステムは配送員も利用する。「注文内容に相違がある」「届け先の情報に不備がある」といった不測の事態に瀕しても、すぐにサポート部署から対処法について回答が得られる。配達員は1分1秒の遅れが1日の報酬に影響する面もあるため、チャットシステムは配送遅延の抑止だけでなく、配達員の待遇向上(報酬アップ)にもつながっていると言える。

 加えて、配達員の”質”も重視するのがWoltの特徴だ。近年、フードデリバリーサービスの浸透とともに、配達員が関与する交通事故の多発や、交通ルールの無視といった問題が顕在化している。そこでWoltは採用ハードルをあえて引き上げて、交通ルールを順守し安全に商品を届けられる配送員のみを採用している。

 Woltの配達員になるためには説明会の受講が必要で、その後適正テストを受験する。ここで規定の点数に達しない場合は配達員として登録できない決まりだ。

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2015年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。

企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)済み。

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