焦点:新興国が脅威と感じるインフレ、注目すべき4つの要素
[ロンドン 21日 ロイター] – インフレは貧者に対する税金と言われる。新興国の中央銀行が今、原油や食品などの価格上昇に伴う物価圧力を抑えようと行動しているのはそうした理由からかもしれない。
現在の物価高騰は一時的な現象だとの認識を示している米連邦準備理事会(FRB)と異なり、新興国の政策担当者には特に、悠長に構えていられる余裕などない。そうした多くの中銀は経済が新型コロナウイルスのパンデミックの痛手から立ち直る前でも、利上げサイクルを始動させている。
ユニオン・インベストメンツのファンドマネジャー、セルゲイ・デルガチェフ氏は、物価圧力がどこまで定着したかはまだはっきりしないと指摘。「(インフレは)先進国の経済活動再開に伴う強力な需要が主に押し上げに働くのか、あるいはサプライチェーン(供給網)の混乱が原因になるのか、その両方になのか。われわれには依然として分からない」と述べた。
現在の新興国のインフレ動向を巡る4つの要素は以下の通り。
(1)通貨のクッションの欠如
一般的にはコモディティー価格高騰は、ドル安を背景として発生する。新興国通貨は上昇するので、コモディティーなどの輸入価格上昇の影響は和らげられる。
ところが今回は事情が異なる。コモディティー価格は昨年4月の底値から2倍に跳ね上がったのに、新興国通貨はそこまで上昇していない。シティの新興国市場戦略責任者ディルク・ウィラー氏は、足元の新興国通貨高によるクッション効果は、通常よりもずっと小さいとの見方を示した。
(2)中国要因
市場は中国の生産者物価指数(PPI)高騰に警戒感を強めている。
PPIから消費者物価指数(CPI)への上昇波及は直接的でない。しかし、中国の製造業が原材料・部品のコスト高を海外の顧客に転嫁すれば、世界的な物価上昇の連鎖に拍車が掛かるのはほぼ間違いない。
TSロンバードのチーフ新興国市場エコノミスト、ラリー・ブレイナード氏は「中国は依然として世界の物価動向の中心だ。しかし今回は海外からインフレを輸入し、先進国の需要が今まさにある工業輸出品の値上げという形でインフレを海外に再輸出するかじ取り役になっている」と分析した。
(3)大規模流動性
さまざまなコモディティーとエネルギーの価格が同時に上昇する現象は、産油国のロシアや産銅国のチリなどにとって「救いの神」だが、インドやトルコといった原材料輸入国には苦痛でしかない。
JPモルガンのストラテジスト、サード・シディキ氏は「コモディティー価格に由来する現在の物価圧力に誰もが驚いている」と述べ、このような同時進行的なコモディティー価格上昇は2008年以降で初めてだとも指摘した。
「ハイテク株ないし暗号資産(仮想通貨)の価格を押し上げてきた世界的な大規模流動性が今、コモディティーの投機取引を主導しているとの見方もある」という。
(4)食料価格
国連の食糧農業機関(FAO)がまとめた食料価格指数は4月までに11カ月連続で上昇し、約7年ぶりの高水準になった。経済再開に伴う需要増を受け、砂糖価格は前年比で約60%上がり、穀物の上昇率も26%になった。
米国からブラジルまでの穀物生産国は気候要因で厳しい栽培環境に見舞われており、特に物価指数における食品のウエートが大きい国の政策担当者の重圧は増している。
ジェムコープ・キャピタルのチーフエコノミスト、サイモン・キジャノ・エバンス氏は「新興国は、1年ぐらいの調整では消えてなくならない問題に直面している」と述べた。