『誰がアパレルを殺すのか』 杉原淳一/染原睦美 著 (日経BP社/1500円〈本体価格〉)

2017/07/01 20:21
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誰がアパレルを殺すのか衣料品市場の苦戦が続いている。本書によると、オンワードホールディングス(東京都/保元道宣社長)、ワールド(兵庫県/上山健二社長)、TSIホールディングス(東京都/齋藤匡司社長)、三陽商会(東京都/岩田功社長)のアパレル大手4社の2015年度売上高合計は約8000億円で、14年度と比べて1割近く減した。

 また、大手4社による15~16年度の店舗閉店数は1600店を超える。アパレル企業だけでなく、二人三脚で成長してきた百貨店も不振にあえいでいる。

 『誰がアパレルを殺すのか』。このタイトルのとおり、本書の目的は「マクロ経済が比較的安定している中で、なぜアパレル業界だけが今になって突如、深刻な不振に見舞われているのか」という疑問に対する答えを見つけることだ。生地や糸を生産する「川上」、商品を企画するメーカーや商社などの「川中」、消費者に商品を届ける百貨店やショッピングセンター(SC)などの「川下」にそれぞれ取材し、分析を試みている。

 結論から言うと、アパレル業界の「無自覚な自殺」が原因である、と著者は指摘する。痛みを伴う改革を避け、現状維持に固執する「思考停止」の姿勢がアパレル業界を窮地に追い詰めたという。

 本書は4部構成で、第1部ではアパレル業界を俯瞰して全体動向を分析する。16年に老舗アパレル企業のイトキン(東京都/前田和久社長)が国内ファンドに出資を仰ぐなど、投資ファンドの動きが活発化していることや、海外生産比率が約97%にまで高まっていること、SCのオーバーストア化が進んでいることなどを述べている。

 第2部では、アパレル産業の歴史をまとめた。1990年代のバブル崩壊までの栄光、SPA(製造小売)やファストファッションの隆盛を描いている。

 第3部、第4部では、既存の考え方にとらわれずに快進撃を続けているケーススタディを紹介する。たとえば、オンラインショッピングサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイ(東京都/前沢友作社長)は、送料無料、コーディネートを投稿できるアプリの開発、オンラインSPAへの参入など、「破壊者」として急成長を遂げてきた。

 企業が変わり続けることの難しさを痛感させられる本である。

(『ダイヤモンド・チェーンストア』2017年7月1日号掲載)

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