トライアル×NTTのタッグで「発注業務の自動化」を真っ先にめざす理由

永田 洋幸 (Retail AI 代表取締役社長)
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われわれ流通業がリテールDX推進にあたり、真剣に取り組まないといけない理由の1つは、メーカーから卸、小売、そして消費者に至るまでに構成されるサプライチェーン上に、トライアルグループ独自の試算で約43兆円のコストが存在しているという事実です。今回の記事では、トライアルグループと日本電信電話(NTT)様で開始した、サプライチェーンの最適化実現に向けての取り組みをご紹介します。サプライチェーン全体の中でもどうしても人が最終的に関わることになり、経験と勘に左右されやすい「発注業務の自動化」から優先的に着手し始めました。

43兆円強の「ムダ・ムラ・ムリ」を削減

 

 

 トライアルは小売業に参入した当初から、効率化につながるシステムの開発やムダな業務の削減にこだわってきました。それはお客さまに1円でも安く商品を販売することをめざしているからです。さらに、このムダ・ムラ・ムリの削減によりメーカー・卸、小売、顧客それぞれがメリットを享受できるからです。

 日本の小売業・メーカーの経営効率は欧米と比較して非常に低いといわれています。大手企業による寡占化が進んでいる欧米においては、ECR(Efficient Consumer Response:効率的消費者対応)の考え方をベースに、「モノを効率良く供給する」ための効率的なシステムや仕組みが発達しています。

 対して、日本の小売市場ではそうしたシステムの構築においては、欧米にはまったく追いついていないと言わざるを得ないと私は考えています。その状況下で、商品が消費者の手に届くまでにはかかっているすべてのコストのうち、約30%にあたる43兆円規模の部分にはさまざまな改善の余地があります。そこには過去の習慣に依存したムダがまだ多くあると私は考えています。

 そういった状況を踏まえ、データサイエンスのスペシャリストであるNTT様とタッグを組み、23年7月から議論を始め、24年1月にサプライチェーンマネジメント全体の最適化に向けたシステム構築に本格的に取り組みはじめました。その第一歩が、商品の自動発注・補充システムの開発です。

 発注業務は流通工程の中で最も発生頻度が高く、関わる企業も幅広い業務です。トライアルはこれまでも自社で自動発注のシステムを開発・運用していますが、改善のスピードをより加速させるために、NTT様との協業に至りました。

店舗環境をデジタルで再現 実証実験がよりスムーズに

 これまでは実証実験というと実験店舗を選定し、従業員に一時的に新しい仕組みやシステムを実行してもらい、ときにはお客さまにも触れていただく必要があるなど、さまざまステップを経ていました 。しかし、 NTT様が得意とする「デジタルツインコンピューティング」を使えば、コンピューター上でシミュレーションすることが可能になります。

 デジタルツインとはアメリカで提唱されはじめた概念で、平たくいうと収集したデータをもとに、現実世界と同じ環境をデジタル上に再現することを指します。これまでは店舗で実証実験をしないとわからなかったことも、コンピューター上での高い精度のシミュレーションを経て把握することができるようになったのです。

デジタルツインの概念
デジタルツインの概念

 デジタルツインでのシミュレーションをより効果的なものにするためには、そもそも” シミュレーションに使うためのデータ をきちんと押さえる”ということが重要になります。

 トライアルの店舗運営においては以前から複数のIoT機器 を導入し、現場で発生するさまざまなデータを押さえてきました。このデータをNTT様が持つデジタルツインコンピューティング技術と連携することで、約300店舗の店頭施策のシミュレーションと実行スピードを加速させることが可能になります。最終的にはもちろん現場でやらなければわからないこともありますが、初期~中期段階の仮設・検証をコンピューターのみで行えることでPDCAのスピードは圧倒的に上昇します。

 また自社のデータだけでなく、メーカーや卸をはじめとした各パートナーと横串での連携ができると、これまでにない高精度なシミュレーションが可能になるのではないでしょうか。個社による「縦のDX」ではなく、サプライチェーン全体で「横のDX」を実現するというわけです。

 今回行う自動発注の分野においては、システム利用によって発注精度や補充精度がどの程度見込めるかをまずデジタルツインで見ていきます。具体的には過剰な発注数が生み出すロスや、逆に発注数が少なすぎることによるチャンスロスが発生しないか、などの項目をチェックします。こうした過剰発注や欠品による返品・廃棄によるロスには、前述の43兆円のうち11兆円ものムダがあると考えています。

「自社でやりきる」ことにこだわる必要はない 

 本連載でここまでも繰り返し述べてきたように、流通業においてはその過程や関わる企業の多さが非常に複雑な構造を生み出しています。そのためメーカー・卸・小売の個社がすべての課題を解決することはほぼ不可能に近いと言えます。

 それにもかかわらず、現在では多くの企業が取り組んでいるDXの取り組みは、ほとんどが”自社完結型”のものに留まっています。もちろん、単独で取り組む「縦のDX」も必要ですが、それだけではDXを通じた著しい成長は見込めません。流通業に革命をもたらすためには、小売やメーカーといった枠を超えた「横のDX」が必要です。各社が持つ力を結集し、アイデアを出し合うべきだと私は考えています。

 今回のNTT様との事例でいうと、トライアルからは効率化された店舗網やIoT機器などから得られる独自のデータを、NTT様からはデータサイエンス分野における知見と技術をそれぞれを組み合わせることで、個社ではできなかったことを実現しようとしています。サプライチェーンマネジメント最適化に向けて、自動発注以外にも、棚割りの最適化や1to1マーケティングの研究なども検討を始めているところです。

 個社でやるべきことはもちろん追求しつつ、「リテールDXを実現し流通産業の構造を変える」という目的のもと、視野を広く持つことで思いもよらぬ解決方法が見つかるのかもしれません。

記事執筆者

永田 洋幸 / Retail AI 代表取締役社長

1982年福岡生まれ。米コロラド州立大学を経て、2009年中国・北京にてリテール企業向けコンサルティング会社、2011年米シリコンバレーにてビッグデータ分析会社を起業。2015年にトライアルホールディングスのコーポレートベンチャーに従事し、シード投資や経営支援を実施。2017年より国立大学法人九州大学工学部非常勤講師。2018年に株式会社Retail AIを設立し、現職就任。2020年よりトライアルホールディングス役員を兼任。

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