伊勢丹、ファンがSNSで自発的に宣伝!イセタニスタが「無償の愛」で活性化する理由
イセタニスタにしかできない体験が魅力
とはいえ、顧客サイドからは、伊勢丹がいささか虫のいい要求を、イセタニスタにしているように見える。何の見返りもないのでは、いくら伊勢丹を愛しているといっても、得意客がイセタニスタを続けてくれるのだろうか。
松岡氏は、「イセタニスタには、ほかのお客さまにはできない、独自の顧客体験ができるという“特権”があります。それが、イセタニスタになることの、大きなメリットの一つと言えるでしょう」と話す。
その特権とは、イセタニスタだけが参加できる、数多くの「社内の座談会や体験企画」。これまで約70種類、約120回の企画を行ってきた。
例えば、万年筆をマスターする講座、化粧品の工場見学会、SNSのフォロワー数を増やす勉強会などを開催。ライフデザインが大好きなイセタニスタが集まって担当者との座談会を開き、チョコレートナイフなどの商品をSNSで紹介するという企画も実施した。「イセタニスタには今後、さまざまな企画立案などにも協力してもらうつもりです」(同)。
こうした「特別扱い」は、確かに伊勢丹ファンにとって、たまらない醍醐味かもしれない。
また、イセタニスタがメディアのコンテンツ制作に参加する機会も多い。「伊勢丹私の3選」という企画では、イセタニスタがお勧めの食品について作成したUGCを、伊勢丹の公式SNSで拡散した。婦人ファッションの最新トレンドを紹介するコーナー「リ・スタイル」では、イセタニスタにコートのモデルとして、インスタライブに出演してもらった。伊勢丹のゆかたカタログにも、イセタニスタがモデルとして登場している。イセタニスタとしては、メディアへの露出度が高まり、個人の情報発信の世間への浸透度が深まることで、SNSのフォロワー数も増える効果が出てくるというわけだ。
さらに、イセタニスタしか入れない“コミュニティ”も魅力の一つだろう。例えば、イセタニスタ専用の非公式アカウントがあって、イセタニスタと伊勢丹のスタッフだけが情報交換できる。「同好のメンバーが出会って盛り上がり、オフ会が開催されることもあります。自分よりも商品に詳しい人に教えてもらって勉強になったと、イセタニスタの皆さんから喜ばれることも多いですね」と、松岡氏は満面の笑みを浮かべる。
伊勢丹新宿店は、得意客であるイセタニスタ自身の来店頻度が増えているほか、「イセタニスタのSNS投稿を見たのがきっかけで、来店するようになったというお客さまも増えています」(同)と喜びを隠せない。
三越伊勢丹は、伊勢丹新宿店だけでなく、JR京都伊勢丹でも同様の取り組みをスタートさせている。