苦境のLCC大手エアアジアが”アリババ化”? 「スーパーアプリ」でコロナショックからの起死回生なるか

2020/10/15 05:53
菊谷信宏(GloTech Trends編集長)

新型コロナウイルスの影響が深刻な業種の1つが、航空業界だ。マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジアも例外ではなく、直近の四半期業績で最終赤字を計上した。そんななかで同社は「スーパーアプリ」を軸とした「総合的ライフスタイルプラットフォーム」をめざすという新戦略を発表し、一航空会社からの脱却を図る動きを見せている。

エアアジアがめざす「総合的ライフスタイルプラットフォーム」とは?

エアアジアの新アプリの概観。旅行やホテルの予約のみならず、ECや生鮮宅配、保険など多種多様な生活サービスを提供する
エアアジアの新アプリの概観。旅行やホテルの予約のみならず、ECや生鮮宅配、保険など多種多様な生活サービスを提供する

 10月8日、マレーシアを本拠とするLCC・エアアジアは、同社のウェブサイトやスマートフォンアプリを一新。アセアン地域のすべての人々のための「スーパーアプリ」をリリースし、「総合的ライフスタイルプラットフォーム(Comprehensive lifestyle platform)」の構築をめざすという新戦略を発表した。

 エアアジアのウェブサイトやアプリは、もともと格安航空券の販売やホテルの予約を中心とした旅行サイト・アプリとして存在感を示していたが、今後は人々のライフスタイルに寄り添った多種多様なサービスを付加し、ビジネスチャンスを広げようというねらいのようだ。

 早速新しいアプリをダウンロードしてみると、飛行機をモチーフとした従来のロゴがAir Asiaの頭文字”A”をモチーフにしたロゴへと変更されている。「エアアジア=航空会社」というイメージを払拭させたい意思の表れだろう。

アプリではフードデリバリーも利用可能。ただ競合と比べると出店数は限定的だ
アプリではフードデリバリーも利用可能。ただ競合と比べると出店数は限定的だ

 コンテンツを見ても、これまでの航空券やホテルの予約といったトラベルサイト的なものから、「Shop(Eコマース)」「Food(フードデリバリー)」「Fresh(生鮮宅配)」「BigPay(決済)」「Insurance(保険)」などのサービスを集積した、いわゆる「スーパーアプリ」の構造への移行が鮮明となっている。

 筆者はまずフードデリバリーを試したが、東南アジアで先行するシンガポールのグラブ(Grab)やフードパンダ(FoodPanda)と比較すると、現時点ではエアアジアアプリへの出店数は少なく、さらなる充実が必須に思えた。しかし、航空会社のアプリからフードデリバリーを利用できるということ自体は、従来にない斬新なユーザー体験ではあるだろう。

スーパーアプリは救世主になるか

 そもそも、スーパーアプリとは何かについて少し言及しておきたい。スーパーアプリとは、中国に由来するビジネスモデルで、アリババ(Alibaba)系の決済サービス「アリペイ(Alipay)」や、テンセント(Tencent)が運営する「ウィーチャット(WeChat)」が”元祖”として知られる。要するに、1つのアプリにSNS、決済、ECなど複数のビジネスコンテンツを盛り込むというかたちのものである。日本ではLINEがスーパーアプリの代表格と言えるだろう。

 ここ数年は、東南アジアでも各企業が中国の成功事例を模倣するかたちで”スーパーアプリ化”を志向するようになってきている。例えば、前述のグラブやインドネシアのゴジェック(GOJEK)は、もともとライドシェア事業からビジネスをスタートさせたが、現在では複合的なビジネス領域を囲い込むスーパーアプリ戦略を成功させ、”デカコーン(時価総額が100億ドル以上と評価される上場予備軍)”にまで成長した注目企業となっている。

 エアアジアも本業がコロナ禍で致命的な打撃を受けるなか、スーパーアプリに今後の成長を託したというわけである。同社のトニー・フェルナンデスCEOは新アプリのリリースに際して、「旅行とライフスタイルを統合した、アセアン諸国で最高のスーパーアプリをめざす」とコメントしており、ビジネスモデルの変革に向けた強い意思を表明した。

 英格付け会社スカイトラックス(Skytrax)による人気航空会社ランキングのLCC部門において、エアアジアは2019年まで11年連続で1位に選ばれるなどそのブランド力は高い。利用客数は東南アジアを中心におよそ7500万人に及んでいる。相当数の顧客基盤を有しているだけに、今回のスーパーアプリのリリースがどのように作用するのか注目したいところだ。

コロナ禍で窮地のエアアジアの現状

 さて、スーパーアプリによってコロナ禍を乗り越えようとするエアアジアであるが、その一方で旅行業全体の低迷により財務基盤が相当痛んでいるのも事実である。

 8月25日に発表された4~6月の四半期決算では、9億9200万リンギット(約250億円)の最終損失となるなど記録的な大赤字となっている。同期間の国別旅行客数を見ても、本国マレーシアで対前年同期比98%減(前年同期比)となるなど経営環境も厳しい。そのため同社の株価をみても、新型コロナ以前は1株当たり1.5リンギット(約37円)以上で推移していたが、直近では0.6リンギット(約15円)と半値以下の水準に下落している。7月には監査法人から企業継続に疑義ありとして警告が与えられたという話が広がり株式の取引が一時停止したこともあった。

 さらに新アプリ発表翌日の10月9日には、エアアジアと国際線事業のエアアジアXの全従業員2万4000人の10%に該当する2400人のリストラも発表されている。日本でも国内4路線を有するエアアジア・ジャパンが12月5日をもって撤退することが報道されたばかりである。コロナの影響により多くの企業が困難に直面しているが、そのなかでもエアアジアグループを取り巻く環境の厳しさは相当なものであることは間違いなさそうだ。

 今回エアアジアが打ち出した、スーパーアプリによる「総合的ライフスタイルプラットフォーム」化戦略は、起死回生の大逆転を呼び起こす成功事例となるのか、はたまた”断末魔の叫び”となってしまうのか。あるいは、アリババやテンセントなどスーパーアプリ戦略の成功体験を有する中国のIT企業が関心を示し、事情が大きく変わってしまう可能性も否定できない。

 いずれにせよ、世界有数のLCCがスーパーアプリをどう活用を志向し、どのような事例を積み上げていくのかは注目に値するケースとなりそうだ。

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