どの決済サービスが生き残るのか?
国内モバイル決済市場の見方を教えます

2019/04/10 05:00
野村光(キカクカ)

流通系企業、通信系企業などが続々と参入し、QRコードを使用するモバイル決済サービスは乱立状態にある。連載の最終回では、野村総合研究所ICTメディア・サービス産業コンサルティング部上級コンサルタントの田中大輔氏に、国内モバイル決済市場のいまと今後について解説してもらった

「流通系事業者」の決済サービスが巻き返しを図る

 現在、「PayPay」や「LINE Pay」、「楽天ペイ」などのバーコード決済サービスが次々と立ち上がり、乱立状態となっています。
 これらQRコード決済を展開するソフトバンクやLINE、楽天などのプレイヤーは、すでに自分たちの経済圏を構築しており、多数の顧客を抱えています。このような企業の決済市場への参入は、自社経済圏のさらなる拡大が目標と言えるでしょう。
 経済圏という意味では、イオングループやセブン&アイ・ホールディングスといった、リアル店舗を持つ流通業による決済サービスが短期的には有利と見られます。実際に約5兆円といわれる電子マネー市場はイオンとセブン&アイでその大半を占めています。
 なお、セブン&アイは自社モバイル決済サービス「7Pay(セブンペイ)」を19年7月にローンチするとしています。こうした流通業による決済サービスは、最初のタッチポイントとなる売場と顧客を保有していることから、後発ながら確実に利用者を確保していくと見込まれます。      
 その一方、「PayPay」や「d払い」といった「通信系事業者」が展開する決済サービスには、それぞれの通信サービスの顧客がいるとはいえ、実店舗の加盟店を新規に開拓していく必要があります。
 「PayPay」「LINE Pay」などが大々的な還元キャンペーンなどを行っている背景には、イオンやセブン&アイといったリアル店舗を展開する「流通系事業者」との差を埋めようとしていることもあるでしょう。

ナナコ
電子マネー「nanaco」で圧倒的な存在感で放つセブン&アイグループは2019年7月に自社モバイル決済「7Pay」をローンチする

3~5年後に勝負が決まる?

 QRコード決済がここまで乱立状態となる以前は、モバイル決済と言えば「アップルペイ」のような非接触IC決済が主流でした。
 QRコード決済は、利用者にアプリを起動させてQRコードを読み取らせる方式のため、支払いのために一手間を踏む必要があります。その一方で非接触IC決済は、スマートフォンなどの端末をかざすだけで決済が完了します。そういう意味で、QRコード決済のユーザビリティは非接触IC決済と比べて低いと言えます。
 QRコード決済は読み取り端末を安価に入手できるほか、クレジットカードと比べて手数料も安く、店舗側にとって導入しやすい決済手段です。ただ、事業者側からすれば、QRコード決済は大きな利益が見込める事業ではありません。そのため、利用者数の規模が、数十万程度にとどまる場合は利益を出していくことが難しいでしょう。
 現在は各社とも大きな投資をして、“利益度外視”で加盟店の拡大に取り組んでいる状況ですが、3〜5年後には収支に関してシビアに捉え、縮小あるいは撤退を検討する企業も出てくる可能性があります。

キャッシュレス決済
田中氏は「3~5年後にQRコード決済サービスの縮小・淘汰が始まるのではないか」と指摘する

QRコード決済は「新たな決済手段」ではない!

 近年増殖するQRコード決済サービスは、「新たな決済手段」と見なされることが多いですが、実際は「本人確認のインターフェース」が違うだけのことです。
 QRコードで決済する裏では、クレジットカードによる「後払い」での支払いか、または各事業者のポイントによる「先払い」での決済といった具合に、従来の決済手段によってお金のやりとりが行われているのです。
 中国では、QRコードが決済のインターフェースとしてすでに広く普及していますが、顔認証による「スマイル・トゥ・ペイ」のような最新技術を使った決済サービスも登場しはじめています。
 今後の決済市場では、「店頭では支払いを必要としない」という、よりインターフェースを意識しないかたちでの、新たな決済サービスが登場してくることも見越しておく必要もあるでしょう。

「現金のコスト」を考える契機に

 最近は「働き方改革」による経営の効率化がトレンドになっていますが、中小規模の店舗では、現金の集計作業などを現場の責任者任せにしているのが実情です。この現金管理に関わる人件費を洗い出していくことで、それなりのコストが「現金を取り扱うため」に費やされていることが把握できるはずです。
 新たな決済手段が登場すると、手数料の問題で二の足を踏んでしまいがちですが、QRコード決済の登場は、現金管理にかかる人件費と手数料を比べてみるよい機会と言えます。これに合わせ、店舗側は「キャッシュレス手数料を加味した価格設定」についても考えていく必要があるでしょう。

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