キャッシュレスデータが見出す消費行動変化

2022/04/13 11:39
    ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局
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    キャッシュレスデータが見出す消費行動変化

    白石寛樹氏

    三井住友カード株式会社
    マーケティング本部 データ戦略部長
    白石 寛樹 氏


    奥谷孝司氏

    株式会社顧客時間
    共同CEO 取締役
    奥谷 孝司 氏

     

     

    【語り手:奥谷氏】
    私はオイシックス・ラ・大地に勤めつつ、顧客時間で企業のDX支援、D2Cブランド作り、OMO戦略を手がけており、白石氏は三井住友カード様にてキャッシュレスデータを活用したデータ戦略を担っている。本日は、コロナ禍で変化した消費行動について、キャッシュレスデータをもとに読み解いていく。

    【語り手:白石氏】
    業界最大級のキャッシュレスデータを用いて消費行動の変化を正確且つ迅速に捉える弊社の「Custella(カステラ)」(画像6)は、企業と顧客の関係性を構築する一助となるような示唆を得られる、これまでに無いデータ分析サービス。画像6のデータは、2019年〜21年12月までのキャッシュレスデータの推移をマクロ表示したCustellaのデータだ。最初の緊急事態宣言でクレジットカード決済が落ち込んだ後、(あくまで21年12月の三井住友カードでは)決済金額・件数共にコロナ前の水準以上の指数に達している。消費者全体がキャッシュレスに推移していることがデータから読み取れる。

    キャッシュレスデータの推移
    画像6

    また別のデータで消費欲求を見ると、「衣」「食」「住」「生活・健康美容」「旅・移動」「遊・学」「オンライン」と大きく7つに区分され、19年〜21年のカード決済金額の指数推移を比較するとオンラインが大きく伸長。2021年12月には過去最高水準となった。 21年のリアル店舗・オンラインでの「ヒット商品番付」では(画像7)、両者とも「生鮮食品」が首位。オンラインで2位となった「映画・動画」は、コロナをきっかけに動画配信サービスを利用するようになったことなどが理由としてあげられる。

    キャッシュレスデータで見る、2021年ヒット商品番付
    画像7

    デジタルイノベーションにより何が起こったのか

    【語り手:奥谷氏】
    前述したマクロデータからも読み解けるように、我々の生活はデジタルイノベーションによって変化している。生活者がインターネットに触れてから20年が経過する現在、「常に顧客と繋がっている」状態であり、2040年に向かって企業はどのように進んでいくべきか折り返し地点を迎えたと言える。

    デジタルイノベーションで何が起こったのだろうか。デジタルを前提とした「暮らしのシフト」「顧客価値のシフト」「競合のシフト」の3点が消費者に起こったものと弊社は考える。これに対して企業側は、「チャネルのシフト(OMO)」「ビジネスモデルのシフト(D2C)」「事業システムのシフト(DX)」を行った形だ(画像8)。

    デジタルイノベーション
    画像8

    海外の事例を紹介する。海外では様々なリテーラーが日本以上にスムーズに、チャネルのデジタルシフトを行なっている。例えば、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ることができる「BOPIS(ボピス)」、Amazon による「Whole Foods Market(ホールフーズマーケット)」の迅速なデリバリー、中国ではアリババ集団が運営する生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマーションシェン)」がアリペイでの決済・デリバリー導入を行い、アパレル企業の「lululemon(ルルレモン)」は「Omni Guest Experience(オムニチャネルの顧客体験)」でよりデジタルを活用した顧客との接点を作っている。日本においても、カインズ、ニトリなどが従来から店舗受け取りサービスを展開しており、コロナ禍において買物環境の最先端事例を作っている。

    さまざまなチャネルシフトが行われる中、特に今求められているのはデジタルで決済して店舗で受け取るというチャネルシフトだ。こうしたシフトをしっかり行なっている企業は、今後もきっと生き残れるはずだ。

    さらに先進的な事例を紹介する。2020年、アマゾンはアメリカのカリフォルニア州に食品スーパー「Amazon Fresh(アマゾンフレッシュ)」の1号店をオープンした。顧客はアレクサを使って、ショッピングリストをアプリで作っておき、次にスマート・レジ・カートにスマホをかざしてショッピングリストを表示。顧客はそのリストを見ながらお目当ての商品を持参した袋やポケットに直接商品を入れて店を出ればよい。レジに並んだり、商品をスキャンする工程は排除され、キャッシュレスで買い物が完了する。

    amazon freshで買い物を済ませた顧客はその後、きっとこう行動するだろう。帰宅してスマホを開き、今度はAmazonのサイトで別の商品を購入する。こうした先進的なビジネスを展開することで、オンライン・オフライン共に顧客がどのような購買行動をとっているかのデータ化が可能となる。

    今や、顧客の価値観と共にビジネスをどうシフトしていくかは、セットで考えなくてはならない。22年、私と顧客時間 共同CEO代表取締役である岩井の共著『マーケティングの新しい基本』が発売された。本に記したフレームワークの一つが「カスタマーバリューピラミッド」(画像9)。今や機能価値による体験価値だけでは他社との差別化は難しい。顧客がその企業に魅力を感じて繋がり続ける価値とは何なのか。そのエッセンスはどこにあるのかをデータから読み解く必要がある。

    PELOTON
    画像9

    例として、米国で大人気のエクササイズバイクの提供企業であるPELOTON(ペロトン)をあげよう。コロナ禍の巣ごもり需要で、エクササイズバイクを自宅に導入する人が急増した。フィットネスジムを運営していないペロトンは、一見、エクササイズバイクを製造する「メーカー」に見えてしまうが、同社はコミュニティビジネスを展開している。

    顧客はバイクに搭載されるスクリーンを通してカリスマトレーナーのオンデマンド指導を受けられるだけでなく、ユーザー同士がつながるコミュニティシステムを構築することで、客離れを防いでいる。鍵となるのは、優秀なスターインストラクターだ。彼ら・彼女らには、業界平均の5倍10倍の年収を保証し顧客の囲い込みを行なっているのもペロトンの特徴だ。

    変化を恐れれば、5年後には淘汰される

    Phillip Kotler(フィリップ・コトラー) の名言「5年後にいまと同じビジネスを行っている企業は消えている」。そうならないためには、データドリブンなマーケティング戦略で、顧客との繋がりを構築する必要がある。

    では今後、マーケティング戦略をどう見直すべきか。顧客時間は「マーケティングの4Pを配置し直すこと」を提唱している。 これまでリスペクトされてきたのはプロダクト(商品)だった。いかに良いプロダクトを作って適切な価格設定を行い、良いプロモーションをして、顧客の接点に繋げていく。

    画像10でいうと、「商品サービス」→「課金方法」→「促進施策」→「顧客接点」というビジネスモデルのうち「促進施策」「顧客接点」をデジタル化する。それだけでなく、「顧客提案」「顧客価値」「顧客理解」「顧客接点」というエンゲージメント4Pの観点からマーケティングを行い、データをもとに商品、価格、コミュニケーションを変えていく必要がある。Custellaは、エンゲージメント4Pを構築するために欠かせないサービスだと私は考える。

    ビジネスモデルのシフト
    画像10

    【語り手:白石氏】
    Custellaは、三井住友カードが保有する膨大なキャッシュレスデータを活用し、今まで見えなかった顧客の購買行動(特にコロナ禍における変化=暮らしとチャネルのシフト)を把握。これによりマーケティング課題の解決をサポートするデータ分析支援サービスだ。個人・加盟店が特定できないよう統計化し、顧客属性データ(新規、リピーター、インバウンド等)や、顧客行動ごとに集計した購買実績データ(平日、休日、時間帯、エリア等)を、様々な切り口で集計・見える化し、企業様のマーケティングを支援する。

    キャッシュレスデータを活用したマーケティング支援サービスは、Custella Trend(カステラ トレンド)、Custella Promotion(カステラ プロモーション)、Custella Insight(カステラ インサイト)、Custella Analytics(カステラ アナリティクス)の4種。

    例えば、Custella Trend(カステラ トレンド)から「注目すべき消費行動① 暮らしのシフト(行動範囲のシフト)」を読み解いてみよう。

    まず、コロナ前後での消費者行動の変化を、横軸「オンライン利用」と縦軸「お出かけ範囲」の二軸にして、キャッシュレスカード会員様を4つに区分(画像11)。セグメントごとの割合の推移を分析する(画像12)。

    お出かけ範囲とオンライン利用
    画像11
    お出かけ範囲とオンライン利用
    画像12

    さらに画像13のデータを見ると、興味深い「暮らしのシフト」が読み取れる。例えば、コロナ禍で苦戦を強いられているのが飲食業だが、キャッシュレスデータから分析すると、消費は2年前と比較し高まっているところもあるという点。理由の一つは、消費者の移動範囲こそ狭まったものの、近隣の飲食店には足を伸ばすという暮らしのシフトが起きているのだ。

    日常業種と非日常業種
    画像13

    【語り手:奥谷氏】
    こうしたチャネルの変化だけではなく、顧客データを組み合わせ、そこに事業会社側がどういう分析して顧客とどうつながりたいのか。いつどのように顧客とコミュニケーションを取ればいいのか。それはCustellaで分析できる。また、分析を起点とし購買意欲の高いユーザーに向けたDMプロモーションまで行なっているのがCustellaの特徴だ(画像14)。

    まとめ
    画像14

    顧客中心主義を貫く

    おそらくポストコロナ時代に、ビフォアコロナの状態には戻ることはないだろう。少なくとも2040年までデジタル化が止まることはないとすれば、企業は事業システムのDX化を推進しデジタルで顧客を理解し戦略を練る必要がある。

    繰り返しになるが、顧客はオンとオフを行き来する。であれば、小売だけでなくメーカー側も顧客戦略を立て、自分たちが提供している商品がどのように顧客の便益に繋がっているのかをデータで見た上で、顧客提案を行なっていく必要がある。そのためには、企業内の組織を「顧客中心主義」の組織に変え完全たる事業目的として稼働すべきであり、これができれば、事業成果は見込めるのではないだろうか。
    (おわり)

    各プログラムの詳細

    下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。

    10年後の高齢者マーケットと『とくし丸』の成長戦略 キャッシュレスデータが見出す消費行動変化

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