早くもアフターコロナを先取りする株式市場は、小売業界の先行きをどのようにみているのでしょうか?2020年に高騰したスーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターは?一人負けの色が濃かった百貨店は?主要小売業の年末から2月末までの騰落率のベスト10、ワースト10をみていきましょう。
日経平均3万円回復
2021年も早くも3月に入りました。年明け移行、株価は堅調に推移し2月には日経平均が3万円台をつけました。1990年8月以来になります。
実はこの年の8月2日にイラクがクウェートに侵攻し、これを契機に日本の株価バブルがはじけ、不動産バブル崩壊・金融危機という内憂と、IT革命による米国復権と統合欧州の台頭、アジア諸国の急成長を受けて多くのライバルが日本企業に立ちはだかるという外患とが重なり、日本の株式市場は長期停滞を余儀なくされました。
こうした文脈を踏まえると、日経平均3万円台回復には感慨を覚えざるを得ません。
直近では長期金利の上昇に伴い株価は調整に入っています。確かに株価指標の中には割安とは言えない指標もあるため、持続的な株価上昇に疑問を投げかける意見もあることは承知しています。
しかし、筆者はバブル期よりも企業の実力が格段についていると考えており、さらに現在の株式市場はワクチン接種の浸透につれて経済活動が正常化していく「アフターコロナ期の業績拡大」期待を織り込みつつあると見ています。これらの考察から、筆者は今後の株価推移について楽観的に考えています。
小売株のパフォーマンスにバラつき
では次に、2021年2月末に株式時価総額が1500億円以上の小売企業39社について、年末から2021年2月末までの2ヶ月間の株価騰落率を見てみましょう。
この間、東証株価指数は+3.3%上昇していますが、今回検討する39社の株価騰落率の単純平均は+2.1%で指数を下回る結果となりました。
次にその内訳ですが、上昇した銘柄数は19、下落した銘柄数は20になります。株価騰落率の標準偏差も12%程度あり、株価パフォーマンスが銘柄間でばらつきました。
上昇目立つ百貨店株
では個別に見ていきましょう。上昇率の高い銘柄は次の通りです。
- ZOZO+31%
- 三越伊勢丹ホールディングス+27%
- J .フロント リテイリング+25%
- 髙島屋+22%
- MonotaRO+17%
- イオン北海道+16%
- 良品計画+14%
- ファーストリテイリング+14%
- 丸井グループ+12%
- セブン&アイホールディングス+10%
好業績の銘柄が並ぶ中、注目したいのが上位に並ぶ百貨店3社です。
百貨店の足元の業績は未だ売上減少が厳しく苦戦が続いていますが、株価は底打っています。
株式市場全体がアフターコロナを見越していると述べましたが、その典型例が百貨店株です。ワクチンの浸透によって百貨店のコアの顧客層であるシニア層の外出が可能になり、彼らの懐は株高による資産効果とこれまでの買い控えによって潤沢であることが株高の背景にありそうです。株価純資産倍率(株価と解散価値の関係を示唆する指標)が大幅にディスカウントであったことも買い手の安心感につながったと思います。インバウンドの復調を織り込むのはさすがに気が早い気がしますが、いずれ業績の押し上げ要因になっていきそうです。
株価が冴えないドラッグストア・ホームセンター・食品スーパー
下落率の高い銘柄の顔ぶれは次の通りです。
- クリエイトSDホールディングス▲17%
- ウエルシアホールディングス▲13%
- ライフコーポレーション▲12%
- DCMホールディングス▲11%
- セリア▲10%
- ヤオコー▲9%
- ワークマン▲9%
- コスモス薬品▲9%
- アスクル▲8%
- ニトリホールディングス▲8%
これらの多くはコロナ禍によるさまざまな特需の恩恵で足元までの業績が堅調な企業です。それにもかかわらず株価が下げているのは、コロナ禍の終わりが見え始め、「アフターコロナ」において消費者の行動制約が解かれると、彼らの売上高の逆風になると株式市場が考えているからでしょう。百貨店株の上昇と表裏の関係にあるわけです。
2021年は2020年の揺り戻しになるのか?
こうしてみると、2021年の株式市場ではアフターコロナを念頭に2020年の揺り戻しが進んでいるように見えます。
ドラッグストア業態については、人の移動が増えることで処方箋取り扱い枚数の増加や医薬品・化粧品等の需要増があるものとみています。その一方で気になるのは、「ホームセンターの株価の調整がどこまで続くか」です。さきほどDCMを取り上げましたが、このほかで堅調だったのはナフコ+2%、島忠+0.2%の2社にとどまり、コメリ▲2%、ジョイフル本田▲9%、コーナン商事▲10%、アークランドサカモト▲11%など、概ね下落しています。
ホームセンターの場合、コロナ禍対応商品の需要が落ち着いていくことに加えて、ステイホーム関連商品は準耐久財が多く買い替え需要がすぐに発生するとは考えにくく、アフターコロナ下で売上の苦戦は免れない気がします。
しかし、ここは利益率の引き上げを通じて利益額をいかに凹ませないのか、各社の腕の見せ所です。利益率管理の巧拙が、今後の業界再編において主導権を握る企業と握られる企業をいずれ峻別していくのではないでしょうか。
2月、3月に本決算を迎える各社がどのような新年度の計画を示すのか、大いに注目したいと思います。
日経平均が最高値を更新する日には、ホームセンター業界の資本効率が現状と比べて見違えるほど改善しているに違いありません。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、