CRMの大原則“オープンに集客、クローズドにおもてなし” その成功例と失敗例

2019/12/17 05:55
柳平 孝(いちよし経済研究所)

師走となり、街中ではクリスマス・年末の雰囲気が高まりつつある。寒さの強まりを体感するとともに冬物商戦が盛り上がることを期待しながら、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった。今回は、CRM(顧客関係管理)において小売業が陥りがちなミスとその根本要因、そして成功事例について解説したい。

Photo by RossHelen
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“間口の狭い”決済にこだわる愚

 前回、現在の小売業界では「ID-POSの普及を背景としたマーケティングのパラダイムシフト」が進行しているとの見方を述べた。すなわち「POSによる単品管理」⇒「ID-POSによる単品”単人”管理」へのシフトである。繰り返しになるが、顧客データ(購買履歴)の蓄積と固定客化に際しては「オープンに集客、クローズドにおもてなし」が鉄則となる。すなわち、集客の間口は広く(=普及度が高く、アクセスが容易で利用しやすいメディアの活用)、顧客の囲い込み策では、上位顧客に限定して集中的に費用投下するということである。

 お店で買い物するお客さんの数は「現金払い→ポイントカード保有客→電子マネー払い→その他クレジット」の順となることが一般的であり、間口の広さの点で、ポイントカード(スマホアプリ含む)がCRM(個客関係管理)の起点となる。

 しかしながら、流通大手はなぜ入口の狭い「決済」にこだわるのだろうか。会社側の説明では、現状のポイントカード(プリペイド型電子マネー付)では顧客の属性情報が十分に取得できないためだと言う。すなわち、ポイントカードに顧客情報が最小限しか登録されておらず、単なる購買履歴のみの蓄積になっているということであろう。

 流通大手のポイントカード導入の際の初動において、ボタンの掛け違いがあったと筆者は見ており、今回も『買い物体験の乏しいオッさんが、慣れないことに見よう見まねで手を出して、大失態をやらかした』見本となるかもしれない。小売企業の方々には“良い子の皆さんはマネしないようにね”と伝えたいが、他山の石として共有していきたいと思う。

既存ポイントカードでは不十分だとする理由は?

 結論から言えば「(クーポン配布による来店誘導)⇒ポイントカードの保有者化⇒ポイント蓄積を先行⇒ポイント利用・カード保有者優遇策を享受する条件として顧客情報の登録を求める」という今となっては「定石」とも言えるプロセスへの理解が乏しかったのかもしれない。いわばポイントカード版「先用後利」というか、先にポイントを貯めてもらって、ポイント利用を誘因策として属性情報を登録していただくということである。ポイント蓄積開始から一定期間は傾斜的なポイント付与率としてもいいかもしれない(短期間で一定程度のポイント蓄積があれば離脱率を抑制できる可能性が高まるため)。

 好例を示すと、たとえばシネマコンプレックス(シネコン)の発行するマイレージカードでは、個人情報を登録しなくても映画鑑賞すればマイレージが貯まるが、無料チケットや特定曜日の割引サービスを利用するためには個人情報の登録が必須となる。あるいは、提案型売場で知られているある優良食品スーパーの例では、新店開店の際に来店客に広くポイントカードを配り、買い物券やクーポンの利用には登録が必要な旨を説明して登録を促進する、あるいは後日、ポイントと買い物券の引換方法を質問された際に、あらためて登録が必要な旨を説明しているとのことである。これらは“間口を広く開けておき、顧客の囲みこみ策へと誘う”好例と言えるかもしれない。

 逆に悪例として、冒頭で述べた“ボタンの掛け違い”とは、ポイントカードの入会時にガチガチの登録を要求し、カードホルダーが期待したほど増えなかったことから、要件緩和を迫られ、取得情報の乏しいポイントカードになってしまったというケースを意味する。例えば、セブン&アイ・ホールディングス(以下7&I)は、nanaco」スタート時に(筆者の記憶の限りでは)記入フォームが細かく、保有者数が伸び悩んだことから、事後的に登録条件を大幅緩和している。かつ、顧客に対して登録情報を深めるようなインセンティブも無いに等しかった。

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