無理解の壁・後篇 似て非なるGMSの食品売場と食品スーパー

柳平 孝(いちよし経済研究所)
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新型コロナウイルスの影響は収まる様子もなく、外出先が制限される風潮もあるが、食品スーパーでの買い物をささやかに楽しみつつ、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった(本稿は全3回からなる「無理解の壁」の後篇です)。

GMSの食品売場とSMは似て非なるものである(写真はイメージ)
GMSの食品売場とSMは似て非なるものである(写真はイメージ)

GMSとSMの決定的な差とは?

 前々回、前回と総合スーパー(GMS)企業による食品スーパー(SM)事業の失敗の歴史、および食品スーパー(SM)最大手企業をみすみすスポイルしてしまった事例を見てきた。なぜ、総合スーパー(GMS)企業は、歴史や他社の事例から学ぶことをせず、同じ間違いを何度も繰り返すのであろうか。もちろん「自分たちは(失敗した他社とは)違う、もっと上手くやれる」との思い上がりもあるかもしれない。あるいは案外、同業他社の情報は入りづらく、他山の石とはできないのかもしれない。そこで、本稿ではより本質的な要因を考えていきたい。

 結論から言えば「GMSとSMは全く異なる業態である」ということである。“何を当たり前のことを”と思うかもしれないが、過去の事例を見る限り、当のGMS経営者・従事者がそれを理解しておらず、かつ、その無理解を自覚していないことは明白だ。

 GMSは衣料品・食品・住関連商品を総合的に扱うがゆえに、SM運営に対して“同じ食品だから自分たちにもできる”という思い込みがあると推察される。しかし、同じ食品を扱う売場といえども、似て非なるのがGMSSMの食品売場である。

図表1 総合スーパーと食品スーパーの違い
図表1 総合スーパーと食品スーパーの違い
出所:筆者作成

 ここで、GMSSMの違いについておさらいしたい(図表1)。そもそもGMSは旧大店法(大規模小売店舗法:19743月~19921)が生み出した特殊な業態だ。厳しい出店規制の下(=既存店にとっては既得権擁護)、競合他社の出店が乏しいことを前提に目一杯広く商圏を設定し、そこで必要とされる生活必需品を総合的に取り扱った小売店舗が今でいうGMSである。経験的に約10万人程度の広域商圏が想定されているようだ。総合的な品揃えと店舗規模ゆえ、必然的に週末の買い出し需要のウエイトが高くなる傾向がある。販売政策においても集客施策とセットにした単品大量販売が中心となろう。こうした業態特性の下での食品売場の運営は客数の多さを前提に大量投入した商品を「売り減らす」形となる。

 一方、SMは日々の食生活対応業態ゆえ、平日型かつ小商圏型である。商品政策でも、日々の食生活に対応すべく多品種で、かつ(来店客数の少ない小商圏型ゆえ)少量販売となる。したがって、SMの収益確保の根幹は少ない客数を前提に、柔軟な追加生産・適切な数量管理によって機会ロス・廃棄ロスを最小化する ということとなる。SMが利益を確保するためにはきめ細かなオペレーションが生命線なのだ。

 端的に言えば“GMSは集客で売上を稼ぎ、SMはオペレーションで利益を稼ぐ”と表現してもいいかもしれない。

 上記だけでも、GMSの運営するSMに失敗が約束されている理由がお分かりであろう。GMSの食品売場の運営方法はSMにとって粗いのである。小商圏と単品大量販売のミスマッチ、あるいは平日型店舗にもかかわらず週末のまとめ買い対応の大容量パック投入などによる値下げ処分・廃棄ロスの積み上がりは店舗利益を“瞬殺”してしまうであろう。GMSの食品売場を切り出せばSMになると考えるのは、SMに対する無理解をだだ漏れさせていると言っても過言ではなかろう。

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