盗撮、反社チェック… 小売店における犯罪リスク低減への対策を解説!

西尾 晋(エス・ピー・ネットワーク執行役員・総合研究部担当/主席研究員)
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④ロス要因を明確化し、収益低下リスクを避ける

 「ロス要因の不透明化」による収益低下リスクにも気をつけたい。とくに小売店においては、店舗で発生するロスは大部分が万引き(窃盗)によるものと整理されやすい。

 確かにレジ袋の有料化によるマイバッグ持参の定着や、セルフレジの導入により万引きのリスクが増加し、それによるロスも増えていることも確かである。また、食品の廃棄ロスが一定数生じることも確かである。

 しかし、筆者が所属する企業において、店舗のロス監査を行うと、万引きロスや廃棄ロスで処理していたものが実際には、内部不正によるものであったり、商品管理の不備によるロスであったりすることも少なくない。

 また、食品の廃棄ロスとして処理していたものが、実際は内部関係者の横流しによるものであったりすることもままあることだ。

 ロスの発生要因はさまざまであるため、まずはロス発生要因の精査・分析を行うべきだ。原因が不明にもかかわらず、万引きや廃棄ロスとしていては、効率的なロス低減対策は行えず、ピントのずれたロス対策費用を必要以上に支出し、利益を低下させてしまう。

 たとえば、万引きによるロスが実際に多いのであれば商品陳列や販売方法の改善、保安警備員の導入により、そのロスの低減を図れる。しかし、実際は万引きによるロスではないのに、保安警備員を増やしても、コストばかりかかってロス率の低減にはつながらない。

 ロス発生要因の精査・分析は、店舗のロス要因の種類を把握し、実際に店舗を実査してその現状をチェックするといいだろう。こうすることでロス要因に関する詳細な分析が可能となる。ロス要因を詳細に分析できれば、真のロスがどのような原因で生じていて、どの対策を強化・改善すべきなのかも明確になるため、効果的なロス対策が可能となり、ロス対策を通じたロス率の低減と利益の向上が実現できる。

 ロスの発生要因を実態に即して詳細に精査・分析した企業のケースでは、詳細なロス要因の分析とそれを踏まえた適切な対策の実施により、数千万~数億円の利益改善に繋がっている。

 小売店においては、今一度、ロスの要因を万引きや食品ロスと曖昧化・包括化することなく、詳細に分析・精査してみることをおすすめしたい。より多角的な分析を行うことで、今までのロス対策が適切なアプローチであったのかを分析することも重要だ。ロス対策のための費用が、実際はロスを生んでいたという皮肉な状況を生まない為にも、ロス要因の詳細な精査・分析は欠かせない。

iStock/Ignatiev

⑤日ごろから従業員の防犯研修・訓練を

 最後に強盗などの防犯対策の重要性について解説していく。昨今、高額品や、クレジットカードなどの換金性の高い商品をねらった強盗事件が多発している。営業時間中に行うケースも目立っており、状況によっては従業員が負傷・受傷したり、お客が巻き込まれたりするリスクもある。

 いざ、強盗や暴漢が来た際の対応は、頭で対応要領はわかっていても、咄嗟に動けるものではない。完全に不意を突かれれば、不測の怪我もしてしまう場合がある。店舗の防犯は警備会社まかせにするのではなく、従業員が研修・訓練を通じて、咄嗟の場合でも判断・対応できるように準備しておく必要がある。警備員が臨場するまでにはおおよそ犯罪は終わっている場合も少なくない、警備会社を導入しているだけでは従業員やお客への被害を防ぎきれない。

 危険性があるなかで、従業員は自分自身やお客を守るためにどうするべきか、研修・訓練を通じて、咄嗟の場合でも判断・対応できるように準備しておく必要がある。防犯対策は、店舗の安全管理対策の基本中の基本である。警備員や機械まかせでは、命に関わる事態を招きかねないリスクがあることを正しく認識し、日ごろから従業員の防犯意識、対応力の強化、警察との連携体制の強化などに注力しておくことが重要である。

 以上、5つのリスクについて、簡単に対策も含めて解説してきた。ぜひ本稿を参考にリスクヘッジに努めていただきたい。

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