やりがちな「スキル採用」で会社がめちゃくちゃになる理由と正しい採用戦略とは
公認会計士資格者が重宝される理由
次に、企業側の視点で採用人材要件を考えてみよう。なにより重要なのは「地頭の良さ」と「素直さ」「柔軟性」である。日本企業の場合、ファーストリテイリングなどを除いて、会社の仕組みやシステムの上でオペレーションをやっているだけ、というケースが多い。新たに業務を変えていったり、馴染んでいったりしながら組織に溶け込んでゆくことが大事なので、スキル以上に「頭が良くて柔軟な人」を選ぶ。「頭の良さ」は、論理力やコミュニケーション力で見る。論理力とコミュニケーション力が高い人材は戦略思考が高い。
また、人は、大空高い場所からものごとをみるバーズアイ(鳥の目)と、地面を這うようにディテールを見ることができるアンツアイ(アリの目)の複眼力が求められるが、多くの人はどちらかに偏っていることが多く、全社のバーズアイを持つ人はものごとを大所高所で単純化し、「こんなものは、こうしてああしてポンだ」と適当なことをいう。また、アンツアイしかもっていない人は、些末なコトばかりいって「木を見て森を見ず」の状態になっている。複眼力とは、時にディテールをさらりとこなし、時に気付かないような視点を大きな世界観から見る両刀遣いだ。これができなければ、人の上には立てない。
私はこれを「下位互換性の法則」と呼んでいる。「下位互換性」というのは、下の人の仕事をやってみろ、といわれたら代わりに十分こなすことができ、経営目線で大きく会社のビジョンや戦略を語れといわれればそうすることができる能力だ。人間というのは、自分ができること以上の能力を上司がもっていないと、その上司を信頼できず、また、ついていけない。だから、スキル買いより複眼力を重要視して採用することで、チームプレイが可能となる。
柔軟性は、「困難な仕事をやりきった経験」(失敗していても良い。むしろ、失敗していた方が良い)を評価する。私がもっとも評価するのは、公認会計士の資格だった。会計士は、数字で会社を語る技をもっているため話が論理的で非常にスッキリとものごとをまとめる力をもっている。加えて会計士は、会計や組織、ガバナンスに優れている可能性が高い。「可能性」というのは、中には柔軟性がない人もいて、組織を振り回す人、また、自分は財務は得意だが事業は事業部がすべきだ、という縦割り組織的発想で一歩前に出ようとしないというような人もいるからだ。そういうリスクがあることは誰でもそうなので、「スキル買い」だけではダメだという話を思い出そう。
最後に、私が採用をしていたときに行っていた「秘技」を披露したい。独特な技なので真似をしないでもらいたい気持ちが半分だが、面接に来た応募者にお茶などをだした、秘書グループやオフィスマネージャの人員からその応募者の第一印象を聞くのだ。そうした人員の嗅覚は恐ろしく高い。給湯室で井戸端会議を聞けば、驚くほど会社の人事や「できる人」の話に詳しい。私は、オフィスの掃除をしている方に応募者の印象を聞くこともあった。これら面接者や偉そうな人以外の人達にどれだけ丁寧に接することができるのかがとても大事だからだ。こんなところに、人間性がでてくるのである。最後はあくまでも「参考まで」ということで、お願いしたい。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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