そごう西武よりも難路に?セブン&アイ「スーパーストア事業」再生のゆくえ

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SST改革で掲げる、首都圏SMで
トップクラスに入る意欲的な目標

21年11月に改装オープンした「ヨークフーズ早稲田店」
イトーヨーカ堂は9月1日付けでヨークを吸収合併、首都圏SST事業の運営効率改善を進める

 SST事業の方向性については、2023年3月に中期経営計画のアップデートという形でその考え方が示されています。

 そして、その具体策は10月12日の第2四半期決算説明会で説明があるとされています。また、10月31日には機関投資家・アナリスト向けのIR Day 2023が予定されておりますので、その場でも追加情報が示されると思われます。

 このように百貨店事業の切り離し後、間髪を入れずにSST事業に関する重要な施策説明が行われるわけですので、ステークホルダー全ての多大な注目を集めると思います。

 ではこれまでに述べられたポイントを整理しておきましょう。参考資料は23年3月9日公開の「中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価の結果について」の主にP32-37である。

  • 当面の重点施策は自社アパレル事業完全撤退、首都圏へのフォーカス加速と追加の店舗閉鎖、首都圏事業の統合再編、戦略投資インフラの整備、外部人材活用とモニタリング強化にある。
  • これらの結果、2025年度の目標をSST事業のEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)850億円、うち首都圏SST事業では550億円を稼ぎだす。なお、SST事業全体のEBITDAは現状500億円強とみられ、今後の主たる増分は首都圏SST事業からもたらす。
  • 2025年度のEBITDAマージン(=EBITDA /営業収益;概算としてEBITDA=営業利益+減価償却費等)の目処は6%程度(現状は3.5%程度とみられる)。
  • 首都圏SST事業のROIC(投下資本利益率;一般的にはSST事業にかかわる株主資本と有利子負債で営業利益を税引き後にした額を割った率)4%以上。
  • SST事業は営業キャッシュフローと資産圧縮による資金で必要な投資を賄い、他事業に資金を求めない。

 お気付きの通り、これはかなり意欲的な目標です。

 営業収入の額を追わずに増益を目指すこと、首都圏SST事業で一気に採算改善を目指すこと、目標となるEBITDAマージン6%という水準は、同業他社のなかでも高水準であることが指摘できるでしょう。

 筆者も直近の通期決算で簡単に試算してみましたが、首都圏でEBITDAマージンが6%を超えていると言えそうなのはヤオコーとベルク、5%を超えていると言えるのはマミーマート、エコスまでに限られています。また、ライフコーポレーションは4.5%程度ですので、セブン&アイの意気込みの強さがわかります。

 また、事業の取捨選択を行う際に注目されるROICの目標が4%以上であるという考え方の適否も投資家には問われそうです。単純比較はできませんが、ライフはROICの下限目標を5%としていますので、長期的にはセブン&アイのSST事業の場合も、やはり5%を確保するシナリオが欲しいところです。

 事業説明の場では、これらの目標値の蓋然性についてしっかりとした説明を期待したいと思います。なお、「SIPストア」とよばれる、簡単にいえばコンビニ店舗を拡張し、ヨーカ堂的商品も提供する新コンセプトの店舗展開の成否についても精査が必要になりそうです。

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記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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