「EC、ライブコマース、超低価格」スタートアップ3種の神器で、アパレル産業主役交代の衝撃
大量失業時代は来ない 産業の新陳代謝が起きている
あちこちで繰り広げられるホラーストーリー(恐怖の物語)。アパレル産業は崩壊の淵にある、いずれ来る大量失業時代など、確かに、私自身も「企業再建スペシャリスト」として、低収益にあえぐ商社やアパレルの復活支援を行い、また、そうした企業の生き残りの戦略をあちこちで説いていた。しかし、昨今、私のもう一つの顔、金融投資の世界では、こうした成長著しい企業が、そのハイスピードな成長のため資金不足に陥っているという情報が山のように舞い込んできてくる。彼らは、金と人材不足に悩み成長の踊り場にいるのだ。
また、時を同じくして、旧友のファンドマネージャー達がこうした企業に入り込んでいるのを見ておどろいた。私は、時に数億円という年収を稼ぐIB (Investment Bankerの略、企業買収を生業にする人達)が、なぜ、こんな「吹けば飛ぶようなスタートアップ」に入るのか不思議でなかったのだが、よくよく分析すれば理由は明快だ。企業改革という、幾多の既得権益の破壊と頑固な人の説得に時間を使う再生というウルトラC級の仕事を行っても得られるフィーは限られている。しっかりとした金庫番と成長原資の調達ができる人材としてこれらスタートアップに入ればIPO (上場)で巨額の富を得ることができるのだ。
今、ファンドに「再生をやりましょう」と持ちかけても、「うちは再生は興味ない」、「再生には手を出さない」というファンドが多い。また、中には、こうしたスタートアップに入社し、個人プレイでIPOを狙い、さらに数億円の大金を手に入れることはなんら不思議でないことがよく理解できた。私自身、「生き残るアパレル死ぬアパレル」の前書きに、トマ・ピケティの「21世紀の資本」をご紹介した理由はここにあったのだが、私自身の目がくらんでいたと告白しよう。今は、企業再建より、スタートアップ側に就いて「成長の果実を味わう」方が理にかなっているわけだ。メディアではこういう報道をしないため、我々はアパレル産業は「オワコン」(終わったコンテンツの略)だと思い違いをしているが、大企業にしがみつくことをやめれば、求人は山のようにある。
実際、ファッションビルの丸井、アパレルの名門ワールド、財閥商社のトップに君臨する三菱商事などは「物販」から静かに事業投資の道へ軸足を移しているように見える。オールドエコノミーを追いかけるより、こうしたスタートアップの事業支援を行う金融ビジネスの方が遙かに可能性があるという割り切りだろう。正確に言えば、今は、両方をテストしながら成功する方を将来選択するという戦略をとっているように見える。例えば、三菱商事に訪問すれば、元ファンドマネージャなど、「本当に、年収が合うのか?」と思うような人材がゴロゴロいるし、伊藤忠商事も事業投資を盛んに行っているのはご存じの通りだ。こうした高度専門職を中途採用し、過去の遺物となった純血主義から脱却し、投資銀行やPE (Private Equity 非上場企業への投資会社)業務を行って、金融プラットフォーマーへの道を歩んでいると考えれば合点が行く。
大量失業時代が来るなど、衰退著しい百貨店などを例にあげ、不安を煽っているメディアを横目に一般消費者である女子達は既に購買先を変えている。百貨店は数が多いだけで、その存在意義は全く消えていない。コロナが終われば、また富裕層や贅沢を味わいたい層の憩いの場として駅前好立地に君臨するだろう。
今、スタートアップ企業の服を買っている彼女たちがやがて30代、40代になるころには、こうしたスタートアップが産業界のリーダーになっており、商社やVCによるインキュベーションによって、業界地図はがらりと変わっていることになるだろう。
私自身についていえば、それほどドラスティックに自分自身を変えることが心情的にもできないため、私と併走してくれる先と、こうした産業界の航海図・見取り図をテーブルに広げ、ターンアラウンド、あるいは、ビジネストランスフォーメーションの戦略を考えて、また、私のやり方で実行しているこだわりは捨てていない。ただ、こうした流れに目を背け、産業界の変革の流れから目を背けても何ら生産性のある発想はでてこないことを思い知らされた。
不気味な1兆円企業、中国Shein(シーイン)の実態
そんなとき、私が1ヶ月ほど前に対談で紹介した「Shein(シーイン)」という中国の企業が、米国の「fashion of the year」を受賞。その売上は1兆円を超え、ZARAを抜くのは時間の問題という報道が米Bloomberg Businessweekに掲載されていた。自身のチャイナ・ネットワークを使い、中国での同社の動きを調べたのだが、ほぼ全ての人は「もちろん、知っているが、中国では一切販売していない」というものだった。一兆円といえば、当然、世界ファッションランキングの上位に君臨しているはずなのだが、すくなくとも、先月見た某誌のファッションランキングにその名は無かった。
実は、Sheinは日本でも事業展開をしている(https://jp.shein.com/)。
同社の商品の出来映えや米国の論考などを読み込むと、恐ろしいほど、そのビジネスモデルは上記のスタートアップに似ていることが分かった。(私が今回「D2C」という言葉を使わなかったのは、日本で「D2C」といえば、アパレルの直販ビジネスのスタートアップというイメージがあり、誰も、その明確な定義を語らない、語っても、解釈がばらついているからだ)
一方で、ある情報筋から、いよいよ、Amazonが米国で多くのアパレルを死滅においやった「Amazonマーケットプレイス構想」を日本で本格展開するという話も入ってきた。確かに、日本のアパレル産業は弱り切っており、本来、国の仕事であるSDGs問題まで突きつけられている一方、日本には、まだまだ素晴らしい繊維産業の技術が残っており外資系企業やアクティビストファンド(企業を買収し経営に積極関与するファンド)から見れば、「特売価格」なのである。過剰融資により生きながらえている企業も、やがては不良債権化するのは時間の問題かもしれない。米国でも過去同じことがおき政府が荒療治を行って繊維、アパレル産業の不良債権を、ほぼゼロに近い値段で売りつけ一気に新陳代謝させた歴史がある。
次週、Sheinという企業について徹底分析した結果をお伝えする(編集部注:Sheinに関する記事は、都合により、来週火曜日より早く公開することがあります)。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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