サステナブル・ファッションは救世主か?アパレル業界でトレーサビリティが進まない単純な理由 

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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半分が捨てられると主張する人の根拠はここ

 このホームページでは、国民一人あたりの年間購入枚数を18枚としており、「50%破棄の根拠」はここにありそうだ。つまり、35億点の新規投入において、衣服を着る日本人を1億人と想定した場合、18億点しか消費されない計算になるため、「約半分が捨てられる」ことになるわけだ。

 だが、この計算は、そもそも上記と数が合っていない。捨てられる服は17億点なのか9億点なのか、数が倍も異なっている。私にむけられている批判に「数量がない」というものがあるが、このように簡単な検算で「ちょっとおかしくないか」と、あやまった数字をのせ、さも説得力があるような状況に問題はないのだろうか。

  さて、本論は、こうした重箱の隅を突くことを目的としているわけでなく、私が前々回の論考で「恣意性を感じる」という根拠がこういうところからも見て取れる。

  そもそも、余った衣料品を船で大量に途上国に日本が輸出しているなど、ユニクロなど世界規模で衣料品を展開している企業を除いて聞いたことがないし、さらに、その輸送コストは誰が払っているのかなど疑問は尽きない。

サステナブル・ファッションへの疑問

 私がさらに強い違和感を持つのは、なぜそこまでして「生産」し「販売」しなければならないのかということだ結局、環境省の数字を是とするなら、国民1人が18点を購入し、12点を破棄しているのが現状だ。普通に考えれば、「捨てられる12点をどうするのか」というところに目を向けるべきではないのだろうか。

  それに対し、サステナブル・ファッションを推進したい環境省のロジックはこうだ。統計をとったら消費者の60%以上はサステナブル・ファッションへ関心がある。だから企業は、サステナブル・ファッションを生産せよ。それによって、破棄されれば、再利用される、あるいは、土に帰るという循環型経済に移行しよう、というものだ。

  しかし、この統計は、私が先日テレビ出演したときに渡された統計とは全く異なっている。その統計の要約は、①日本の消費者のマス市場を形成する消費者は、「価格が安いこと」と「デザインがよいこと」の2点が圧倒的で購買要因の70%を締めている、②「環境配慮型ファッション」に対しては、5%以下であり、企業が環境配慮型アパレル製品のコスト高を消費者に転嫁することは難しい、というものだった。その番組での議論もそこにあった。

 自分に都合の良いデータを使う、あるいは創っている「恣意性」、もっといえば「情報操作」があるのではないだろうか。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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