データの分析・活用だけでなく顧客との「ハイタッチ」を重視する=全日本食品 平野 実 社長

聞き手:下田健司
構成:オフィスライト:小林麻理
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顧客一人ひとりの購買行動を分析

──全日食チェーンといえば、情報活用に力を入れていることで知られています。自動発注システムはその1つですが、現在、何に重点を置いていますか。

平野 自動発注システムでは、店舗単位で商品ごとに発注点や発注数を出しており、高い精度で予測値を出すことができています。自動発注システムを導入することで、店舗運営を効率化できるという面だけでなく、発注漏れによる欠品をなくし、販売機会の損失が減らせるというメリットは非常に大きいと考えています。自動発注システムによって、過剰発注による在庫ロスも削減できます。また、スイーツなどの賞味期間が短い商品では、あらかじめ売り切れる日を設定することでロスを最小限にするロジックも使っています。

 ただ、過去の販売実績に基づいて発注数を決める自動発注システムでは、週末や盆・正月といった特異日には対応できません。ですから手動で発注する必要があるのですが、店舗でその運用がうまくいっていないところもあることが課題となっています。

 自動発注システムは、これまで加工食品を中心に導入してきましたが、最近パンへの導入も開始しました。取引先とオンラインで結んで直接納品してもらっていることもあり、大きな効果を上げています。

 生鮮食品でも自動発注システムの導入を計画しています。従来は、全国で生鮮コードが統一されていない問題がありました。生鮮食品にはJANコードがないうえ、SKU単位では、キャベツ1つとっても、まるごと1個と、2分の1カットと4分の1カットとさまざまです。今年、10年来の課題であった生鮮コード統一ができる見込みです。これによって自動発注システムが可能となりました。生鮮コードが統一できた背景には、加盟店への納入経路が全日食の物流センターに集約されてきたことがあります。以前は、生鮮食品の半分は市場から、半分は物流センター経由でした。

 今後、自動発注システムの対象商品を広げるとともに、加盟店での自動発注システムの導入の促進を図りたいと考えています。

──もう1つの情報活用が、会員カードを利用したFSPです。

平野 POSデータはあくまで販売総数量であり、お客さま一人ひとりの購買行動を捉えているかというとそうではありません。会員カードの顧客IDと紐づいたPOSデータの分析が必要になります。全体総計から顧客の購買行動を推測するのではなく、一人ひとりの顧客の購買行動の積み上げから、MD(商品政策)を組み立てるという考え方がこれからはますます必要になってくるでしょう。

 たとえば、全日食チェーンの店舗を日常的に利用するお客さまとそうでないお客さまでは、データとして表れる数字がまったく違います。ですから、傾向をつかみたい客層に絞ってデータを見ていく必要があります。

 さきほどの消費税増税の影響についても、全日食チェーンの店舗を3年以上にわたり、月15回以上利用していただいているお客さまに絞って分析しました。そうすると15年4月の増税を境に、毎日のように全日食を利用していただいているお客さまでも買上点数を減らしている方の割合が増えていることがはっきりとわかりました。対象を絞り込んでデータを分析し、そのデータ分析の結果に裏づけられた施策が重要だと考えています。

──多くの小売業が取り組んでいる、年齢や性別などの属性による分析はしていますか。

平野 お客さまの買物行動は多様化していますから、属性で分析する意味は小さいと考えています。たとえば、30代女性、40代女性という括りの中でも、ライフスタイルなどによって購買行動はまったく違うでしょう。同様に同じ地区に住んでいるといっても買物の志向は多種多様です。消費者が多様化している今、属性による先入観によっては、MDがずれてしまう危険すらあります。

 これからは、Aさんの買物行動、Bさんの買物行動といったように、お客さまごとの買物行動に照準を合わせて分析し、MDを練っていく必要があります。

 販売促進においても、一人ひとりに照準を合わせなければ、思ったように成果は出せません。ふだんまったく買わないような商品の情報がいくらたくさんあっても、お客さまにとっては魅力がないからです。

 われわれが力を入れてきたFSPでは現在、一人ひとりの顧客に照準を合わせたチラシをレジでお渡ししています。たとえば、お勧めしたいメーカーの新しいシリアルがあった場合は、シリアルをよく買われるお客さまに対して、その新しいシリアルの買得情報を提供することで効果的な販売促進が可能になります。これは「個別特売チラシシステム」というシステムで、「ZFSP」と呼んでいます。顧客の年齢や属性からではなく、買物行動のみでお勧め商品を決める、ネット通販の「アマゾン・ドット・コム」が行っているレコメンド情報のロジックと似たような考え方です。

 またZFSPも、生鮮コードの統一によって生鮮食品の買得情報も掲載するように変更します。その際は、お客さまがよく購入する2分の1カットのキャベツに購入特典を付与するといったように、SKU単位で情報を提供できますから、高いヒット率が期待できるでしょう。

 このように、顧客視点のワン・トゥ・ワンマーケティングを突き詰めていくことは、全日食チェーンの大きな割合を占める小さな店が生き残っていくうえで非常に重要です。顧客データの分析において、長年蓄積してきたノウハウは大きな武器になります。

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