ベンダーとアパレル双方が勘違い アパレル業界で需要予測が機能しないこれだけの理由と解決策

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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アパレルの人間にとっての「需要予測」は「マーチャンダイジングの五適」を満たすもの

 冒頭で私は、アパレルビジネスの「需要予測」には二種類あると述べ、業界人とそれ以外では、「需要予測」の解釈が全く異なっているということを述べた。

  まず、アパレル企業で働く人達が、シーズンインの前にミラノやニューヨークのコレクションで見、市場全体としての傾向値である「トレンド」の“需要予測”である。もう一つは、個別企業が、個社毎に行っている「商品計画」、つまり、MD業務における「需要予測」の2つである。前者であれば、サステイナブル、アウトドアなどの「世界的な傾向」であり、後者であれば、それは、個社ごとの、ブランド、価格帯、キャリー在庫によって適正在庫の投入量など全く違うということだ。悲劇は、「需要予測」を語る方の多くに、アパレル企業がやっている商品計画の細かさや精緻さを理解している人がほとんどいないということである。だから、ざっくりした「傾向が分かれば余剰在庫がなくなる」などという、私から言わせれば、風が吹けば桶屋が儲かる以下の論理が民法を使って全国放送されるのである。

 幾度も繰り返し語り尽くし、書籍にまでそのメカニズムを克明に記載したアパレルビジネスのデジタル需要予想であるが、今一度、両者の違いを学んでいただきたい。

  まず、個社が取り得る商品計画、つまり、MD業務の五適とは、

  1. 適時
  2. 適価
  3. 適量
  4. 適所
  5. 適品

である。個別の企業、いや、その中にある個別ブランドは、これら5項目を、針の穴を通すほど精緻に設計せねばならず、それを日本にうごめく10兆を構成する全ての企業が行わなければ、買い約先行取引(仕入れてから販売するビジネスモデル)を続ける限り、論理的に余剰在庫問題は全く解決しない。

 五滴とは、「最も相応しい商品」を「最も相応しいチャネル」で、「最も相応しい時期」に「最も相応しい投入量」と「最も相応しい価格」で販売する計画業務なのだ。

 そして、さらに、この五適が、実需(実際に消費者が購買する需要)とズレる、あるいは、ズレなかったとしても納期遅れなどが発生するから余剰在庫や欠品が生まれる。それを、ざっくりと、「今年の冬は黒が流行る」などというレベルのトレンド「需要予測」が、五適業務の参考になっても余剰在庫にはなんら影響は与えない。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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