ベンダーとアパレル双方が勘違い アパレル業界で需要予測が機能しないこれだけの理由と解決策

河合 拓
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ZARAがヒント!アパレルが需要予測を役立てる方法

 それでは、アパレル向け「需要予測」モジュールは、全く役に立たないのだろうか。

 私はそうは言っていない。なにより、まずトレンドとしての「需要予測」と、個社の商品計画としての「需要予測」用語の使い分けと、それぞれの役割と限界を学ぶべきだろう。実際、あれだけ私は世の中に同じことを繰り返し発言してきたが、デジタルによる「需要予想」という近未来的響きからか、誰もが思考停止に陥っている。

 それでは、私は冒頭で「一定の条件下においては」という但書をつけたが、その「条件」について書き綴って本稿をしめくくりたい

 私は以前、ザラ(ZARA)の「Subject to unsold (売り切り御免)」によるMD手法を解説した。これは 数万人のリサーチャーを世界に配置し、各エリアの傾向値を分析しながら次々と新規商品を出す手法だった。1年を12シーズンとし、欠品をものともせず、毎月商品を入れ替えることで、8回転のSPAリテーラーあるいは、未だに4回転の百貨店アパレルを次々にシーズン遅れとし「蟻地獄」に落とす仕組みである。

 この仕組みは、拙著「生き残るアパレル 死ぬアパレル」(ダイヤモンド社)に詳しく書いているので、ぜひ手にとって学んで欲しい。

 私の戦略は、このハイテク技術を用いて、無敵のZARA に一泡吹かせてやろうというものだ。

 以下、企業が取りうる3つの戦略とその条件を列挙する。企業は、それらの中のどれかを選び、ハイテク技術を使って業績改善に繋げて頂きたい

 

  1. もし、「需要予測」が全体感としての「トレンド需要予測」であれば、ZARA型のリサーチャーの役割をやらせればよい
  2. もし、「需要予測」が、個社の「五適を前提とした商品計画」であれば、まず、需要予測などを検討する前に、自社のブランド力を強化し「顧客率」(売上に占める固定客の割合)を高め、消費者が、他の類似ブランドに浮気しない状況をつくることだ
  3. さらに、トレンドから逃げるという作戦もある。ユニクロや無印がやっている手法だ。そもそも、トレンド品を作るから、需給バランスが崩れるのだ。ならば、市場に投入する商品から可能な限りデザイン性を抜き、極めて品質の高いベーシック衣料に特化することである。「逃げるが勝ち」という考え方だ。

 アパレル業界の悪しき伝統である、「ちょっとつまんで、使えない」とゴミ箱に直行させ、「目新しいものはないのか」と、次の「青い鳥」を追いかけるやり方は、地獄へのラットレース(同じことの繰り返し)に陥る可能性が高い。

 改革に「魔法の杖」など存在しない。一世を風靡した「シックス・シグマ」や「サプライチェーンマネジメント」など、そのオリジナルは日本のTQC (Total quality control)であり、トヨタJIT (Just in time: カンバン方式)だ。日本語を横文字にしただけで、企業改革までもどこからか吹いてくる風のような「トレンド」にしてしまっては、日本のアパレル産業に未来はない。失った30年、私は社会学の研究者であった父が幾度となく教授陣たちと、「いつ、次の景気はやってくるのか」と、ある種、自らの主体性をなくし、全てを他責化していた会話が頭から離れない。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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