過去の成功体験にすがった「末路」 老舗スーパー「やまと」経営が失敗した理由

2020/10/16 05:57
    やまと元社長 小林久
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    倒産した理由④ 逆境からの成功体験が今も通じると信じた 

     第4に、代替わりの逆境から復活した成功体験(赤字の店舗の閉鎖、経費や仕入れの見 直し)が、現在でも通用すると信じてしまったこと。大赤字で先代から経営を(無理やり)引き継いだとき、私は「なんとかしなければ会社 が潰れてしまう」という恐怖心からさまざまな改革を試みた。

     メインバンクを変更、メインの仕入れ問屋も変更、わがままだった親戚縁者はすべて解雇。チラシも自社でつくり、折り込み会社には「たくさん入れるのだから安くしろ!」と迫った。家賃も大家さんに頼んで値引きしてもらった。乾いた雑巾をこれでもかと絞るように、ムダな経費を削っていった。

     赤字の店舗は残されたお客さんのことなど考えることなく閉鎖していき、贖罪の気持ちからその後の採算の合わない移動販売車や空き店舗への出店に繋がっていく。その結果、当時のやまとが見事復活したことも事実なのだが……。時代はもう昭和ではない。平成を通り越して令和である。街に残る昭和の店は、ジーンズで言えば「ヴィンテージ」ではなく、効率の悪い「ダメージ」仕様なのだ。

     いまは欲しい商品は、顧客の選んだ店や方法でいくらでも簡単に手に入るようになった。衣料や食品・家庭雑貨や医薬品などの大手チェーンは日本中に展開し、畑しかなかった郊外には要塞のような巨大ショッピングモールが乱立している。アマゾンで頼んだ本は翌日には届くし、コンビニエンスストアはすでに「国策においてもなくてはならないインフラ」にまで成長した。

     すべてのサービス産業が過当競争を消費者に危惧されるほど店舗数を増やしていく。「こんなにスーツ買うのか? こんなに薬や化粧品を使う?そんなに外食しないだろ? マッサージには困らない、床屋も安いし早い!なんだこの商品、100円で買えるの か。いままでの値段はなんだったんだ!」

     規模や価格にとどまらず、接客や顧客データに基づく販促も武器にして大手企業は攻めてくる。最近まで出店を阻止してきた田舎の商店街など、隣町にライバルが出ただけでもすぐに経営は傾く。上っ面だけの「地域土着」スーパーは、その標的にされなくてもジリ貧になるのは明らかである。

     解決策といえば、自ら申し出て大手企業の傘下に入る、採算割れの店舗はすぐに閉鎖した後、早めに自主廃業の道を探るなどが賢明なのだろうが、私の選んだ道は過去の成功体験の焼き直しとも言える「赤字店舗の閉鎖と経費の削減」だった。

     出店して起死回生を狙うことができない状態ではそれしか選択肢がなかった(人に聞けばその他の解決策もあったのかもしれないが) 。そして回復半ばにして資金が途切れてしまった。決断の遅い、その場しのぎの経営をしているような会社の末路は倒産しかない。

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