コロナ反動と値上げで伸び悩む生協宅配 さらなる進化の伸び代と戦略… とは

大宮 弓絵 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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事業構造改革にメス 店舗の価値を生かす

 そして、ここにきて本腰を入れるのが店舗事業の抜本的な改革だ。生協は長年、宅配事業の収益によって店舗事業の赤字をカバーする事業構造を抜け出せずにいる。しかし、昨今の各種コスト増が宅配事業の収益を圧迫しつつあるなか、本格的な事業構造改革が喫緊の課題となっている。店舗事業供給高が全体の約5割と生協のなかでも高い割合を占めているコープこうべ(兵庫県)では「収支改善の見通しの立たない不採算店は、営業終了も視野に改革を進めることが必要」(岩山利久組合長理事)と、いよいよ本格的に店舗事業改革を進める方針を示している。

 一方で生協は、店舗やここで得た組合員データといった店舗事業の資産を生かし、連携を強化することで宅配事業のさらなる成長を図ろうとしている。具体的な例としてコープこうべでは、宅配で注文した商品を受け取れる「めーむひろば」を店舗に設置。宅配と店舗両方を利用する組合員は、店舗だけの利用者と比較して生協利用額が約1.7倍も高くなる傾向があることから、今後はこの「めーむひろば」を起点に宅配と店舗の併用利用者を増やし全体利用額を伸ばしたい考えだ。

 また店舗を拠点として活用し、店舗出荷型のネットスーパーを広げる生協も複数出てきている。コープみらい(埼玉県)は、コロナ禍で導入店舗を埼玉・東京・千葉の計6店まで拡大。週次配送ではなく「注文後すぐに商品を届けてほしい」という組合員の要望に対応する。個店ベースではすでに黒字化を達成しており、サービスの手応えが得られればさらに導入店舗を拡大することも検討しているという。

 さらに大阪いずみ市民生協(大阪府)は楽天グループ(東京都)が運営するネットスーパーのプラットフォーム「楽天全国スーパー」への出店を発表し、23年春頃にサービスを開始する予定だ。こうした店舗を生かしたサービスの創出・強化も進んでいきそうだ。

 このようにコロナ特需から一変、急激に悪化した外部環境のもと、生協は変革を加速させている。中長期的な生協の成長戦略について日本生協連の藤井喜継代表理事事業担当専務は「生協の総合力の発揮」を挙げる。主力の宅配事業に、店舗や福祉をはじめとしたその他事業も合わせて提案し暮らし全般をサポートできる存在となることで、必要とされ続ける存在をめざすという。

 カギとなるのが、組合員データの一元化だ。現在、生協では事業別で個人データが紐づいていない地域生協がほとんどだ。これまでなかなか改革が進んでこなかったが、コープデリ連合会は25年までに統合をめざす方針を掲げているほか、DXコーププロジェクトでも、全国単位かつ事業横断的に統一した「統一ID」で組合員情報を管理する体制構築に22年下期から本格的に動きだしている。

 ここまで述べてきた内容からわかるように生協宅配は、生活にまつわる複数の事業、長年築いてきた物流や生産者とのネットワークなど、競合他社にはない活動資源を有する。データやシステムの整備により、総合力が生かせる基盤が整えば、生協宅配の真価はさらに発揮されていきそうだ。

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記事執筆者

大宮 弓絵 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

1986年生まれ。福井県芦原温泉出身。同志社女子大学卒業後、東海地方のケーブルテレビ局でキャスターとして勤務。その後、『ダイヤモンド・チェーンストア』の編集記者に転身。

最近の担当特集は、コンビニ、生協・食品EC、物流など。ウェビナーや業界イベントの司会、コーディネーターも務める。2022年より食品小売業界の優れたサステナビリティ施策を表彰する「サステナブル・リテイリング表彰」を立ち上げるなど、情報を通じて業界の活性化に貢献することをめざす。グロービス経営大学院 経営学修士

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