前回「 Z世代の衝撃#」1で、顧客に対する付加価値を考えないいかなるハイテク技術も企業の固定費を上げ、競争力を低下させるメカニズムを書いた。今日は、広がりつつあるD2Cで使われ出した「限定ブランド」と「プライベートブランド」の違い、そして、日本でSheinと同じビジネスモデルを展開しているShoichi(大阪府)にもフォーカスを当て、顧客起点のビジネスモデルとは何かを語りたい。
プラットフォーマーが力を付けたから生まれた
これがD2Cの本質
前回、D2Cを集めたOMOストアに閑古鳥が鳴いており、ビジネスモデル論からお客様を取り込むというのは考え方が逆さまだ。お客様の喜ぶ姿を実現するためテクノロジーをどのように使うか、という順番で考えないから、このようになるという話をした。
さて、昨今D2Cという言葉が紙面を飾らぬ日はないが、銀座、新宿はいわずもがな、青山や代官山、下北沢や大手町までファッションの聖地探索してもファッション業界は何も変わっていないように思うのは私だけだろうか。
繊研新聞の調査によれば、「80%以上の企業がDXに取り組んでいる」というが、ひとたび消費者側の視点に立ったとき、私たちは何かの変化を感じたのかということである。
D2Cブランドを集めたストア、などといっても、そもそも商品は魅力的なものがない。中間流通を排除したビジネスモデルであれば、アパレルの企画機能、ブランディング機能が抜け落ちるわけだから、商品がつまらないものになるのは自明だろう。聞けば、工場が在庫リスクを持てないということで、そのD2Cブランドはアパレルを使い、アパレルはお約束の商社を使っているという。これでは、もとのビジネスモデルと変わらないではないか。
今、ZOZOがライブコマースに力を入れているようだが、彼らの潤沢なキャッシュはプライベートブランド(PB)を辞めたことによる「在庫レス」が要因だ。在庫を持たなければ、企業にリスクはない。
Amazonに入っているテナントが問題を起こしたとき、Amazonにクレームを入れても、「お客様とテナントで解決してください」の一点張りで拉致があかない。膨大なアクティブ顧客のデータベースを持ち、「品揃えといえばAmazon」、「ファッションといえばZOZO」という具合に、サイトにブランドができあがれば無敵となる。今、ECプラットフォーマーに死角はない。
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限定ブランドとプライベートブランドの違い
それでは、数々の米国アパレルを死滅に追いやった巨大EC企業マーケットプレイスとはいかなるものか解説しよう。
巨大EC企業には、マーケットプレイス部門とPB部門があり、買い取りを行うのは後者だ。
前者は、可能な限り多くのテナントを集め、品揃えと低価格を武器に、膨大な数のビッグデータをAIで動態解析(お買い物行動を追いかける)し、その人にパーソナライズされたレコメンド(商品推薦)をメールで送る。手数料は、20%〜30%といわれている。需要が拡大しているときは供給を押さえれば勝つ。わかりやすい例で言えば、今の半導体がそうだ。日本は潰しまくった半導体工場をもう一度作っているという有様だ。
これとは逆に、供給が需要を上回っている時は、企業は顧客一人ひとりを捕まえ、追いかけ、絶対に競合に浮気をしないよう囲い込む。このように、市場の拡大期と成熟期では戦略が全く違うのだ。
この顧客の囲い込みは、買い取りをしないECプラットフォーマーにとって悩みの種だ。なぜなら、自社固有の商品がなければ、競合ECに奪われるからだ。かといって在庫の買い取りはやりたくない。
そこで考えられたのが「限定ブランド」である。これは、ECプラットフォーマーにとって極めて都合のよいやりかたで、「自社EC専用のブランドを売ってくれ、ただし、買い取りはしない。転売もゆるさない」というものだ。
ECプラットフォーマーのロジックでいえば、「よく売れる売場を貸してやり、販売データも公開してやるから自由に売ってくれ。売れた分だけ手数料はもらうし、残れば返す」というわけだ。
こうして、工場と直接取引をするのがD2Cである。アパレル産業界は、SPAもそうだが勝手な解釈をている。誤った認識を正すべきだ。
つまり、工場にアパレルが持つ在庫コントロール機能がなければ、工場とD2CはWin-winとはならないのである。
工場というのは、安定稼働をKPIとするため、ダイレクトに消費者に販売するためには受注生産しかない。ZOZOがその昔、ZOZOSUITSで受注生産にトライしたのは、それが理由だ。
ECプラットフォーマーからすれば、供給元は工場だろうがアパレルだろうが「We don’t care」である。
「限定ブランド」とは、工場側にとってすれば、
一方、ECプラットフォーマーにとってみれば、返品可能なPBのようなもので極めて都合がよい。こうした世界的動きの結果、工場には残反、残品が山のように残り、工場は複数のアパレル、アパレルリテーラーに在庫を半値八掛けで売りさばいているわけだ。この構造は、日本と全く同じである。
Sheinが3日で3000SKUを生産するのは不可能
ものづくりの現場を知っている人であれば、3日で3000SKUを生産するなど物理的に不可能であることはすぐにわかる。これは、リードタイムの問題でなく、素材の問題だ。商社の方は考えてもらいたい。
このような「限定ブランド」に安易に飛びつき、
しかし、3000種類のバルク素材、布帛、ジャージー、
Sheinがやっているのは、このような世界的潮流の結果生まれた余剰在庫を買いあさり、低価格で売っているだけなのだ。実は、同じような商売は、日本でも展開されている。それがShoichiであり、ワールドと組
知らない人のために補足しておくと、Shoichiとは「眠れる在庫に魂を与え、再び輝くステージを与えます!」を理念に、法人向けに特化した在庫処分代行業を行っている会社だ。
つまりSheinがやっているのは、
以前この説明を本オンラインでした際、最も多かった質問は「余った商品を押しつけられてどうやって商品政策(MD)が組めるのか」というものだった。だが、それは順序が逆だ。データベースマーケティングによって、売れる商品のサイズ、シルエットなどをあらかじめデータとして持ち、それに合致した商品だけをSheinは買っているところが、Shoichiとは異なるところだろう。
実際私は、中国で友人がSheinのウエブページをAIスマホの画像検知で写真を撮り、サーチしたところ、6つの異なるウエブサイトに、全く同じモデル、同じ服が売られていたのを、Zoom会議で見た。ちなみにモルガンスタンレーは、2022年にSheinはZARAを抜かして世界トップになる可能性があると予想している。
私たちは、もっと論理的、
また、トヨタと日産が12月14日、
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)