ポスト・コロナの打ち筋が見えてくる!20年9-11月期決算の大手小売10社のEC戦略を分析
EC対応進む、ファストリ、ニトリ、セブン&アイの戦略
それでは次に、ECに関して詳しい開示をしている3社についてそれぞれ見ていきましょう。
ファーストリテイリング:実店舗とECが両立
2020年9-11月の国内ユニクロ事業全体の売上収益は2538億円(対前年同期比+9%増)、営業利益は600億円(同+56%増)となりました。このうちECの売上は367億円(同+48%増)で売上高構成は14.5%でした。EC以外の売上は2171億円(同+4%増)となり、2つのチャネルが共存共栄しています。さらに2つの販売チャネルの収益性も互角の模様です。冬場を前に消費者がステイホームへの備えを進めたという追い風をとらえて、商品、販促の効率化、在庫管理、その結果としての価格政策を好循環に持ち込んだ経営手腕は評価されるべきです。
ファーストリテイリングの場合は3千万人を超えるユニクロアプリユーザーを抱えていると言われ、ポスト・コロナ禍において消費者行動が多様化しても柔軟に対応ができる足掛かりを備えている印象です。
セブン&アイ:セブンーイレブンネットコンビニで仕切り直しか
セブン&アイの2020年9-11月のEC売上は235億円(同+1%増)、このうち配達型であるネットスーパーは81億円(同▲14%減)、セブンミールが57億円(同▲1%減)でした。ネットスーパーは3-5月期、6-8月期も減収です。IR資料によれば、IY通販、eデパート、アカチャンホンポ、IY西日暮里などのセグメントは堅調にも見受けられますが、俯瞰的に眺めれば、現在の経営のフォーカスは国内のコンビニ事業と米国コンビニ事業の大型買収に向けられていると推察されます。
ただし、2021年度には、ネット注文でコンビニ店舗から配送を受ける形になるセブン・イレブンネットコンビニが立ち上がる計画ですので、これがどのように同社全体のラストワンマイルのプラットフォームに仕上げられるのかに注目したいと思います。以前のオムニチャネル構想と比べてどのような進化があるのでしょうか。
ニトリHD:実店舗もECも順調
2020年9-11月の店舗売上(海外含む)は1549億円(対前年同期比+8%増)、通販売上は174億円(同+66%増)で連結売上に占める構成は9.8%でした。既存店売上高なども合わせて推察するところ、ファーストリテイリングと同様に実店舗とECが両立して成長している印象です。また、2020年8月末の数値になりますが、アプリ会員数が720万人となっており順調に顧客接点を蓄積しています。
オムニチャネル化進むSPA(製造小売業)
いかがでしたか。
まとめると、SPA(製造小売業)であるファーストリテイリングやニトリHDは実店舗とECを両立させており良い状態にあると思います。一方、非SPAの小売企業は実店舗に力点を置いており、コロナ禍において消費者の支持を高めその状態を維持できていると思います。これもポスト・コロナ禍に向けた重要な足掛かりになるはずです。
とはいうものの小売業全体でECの浸透が続くのがマクロトレンドでしょう。実店舗型の小売業は漸次ECを強化し情報開示(アピール)も増えていくはず。各社の戦略がどのように進化するのかを楽しみにしたいと思います。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、
椎名則夫の株式市場縦横無尽 の新着記事
-
2024/07/08
アインHD、フランフラン買収で変わる?株主総会の争点とは -
2024/06/07
連続増収増益途切れ、株価下落のニトリHDの意外な実態と今後 -
2024/05/09
小売業界新たなフェーズへ!平和堂の株価上昇が意味することとは -
2024/04/08
新中期計画は株主の期待に応えているか?好決算発表後、しまむら株価が下落した理由 -
2024/03/11
再編ラッシュの小売業界、株式市場が「示唆」する次の展開とは -
2024/02/05
イオンのツルハ株取得が促すドラッグ業界再編と「その後」のシナリオとは
この連載の一覧はこちら [58記事]
![椎名則夫の株式市場縦横無尽](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2021/01/20210118_stock_main.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=f045bde97f5f002844629ccb67309663)
セブン&アイ,ファーストリテイリング(ユニクロ),ニトリの記事ランキング
- 2024-07-10イオンVSセブン&アイ 株主優待が示す2社の「大きな差」とは
- 2024-07-18ホームセンター月次実績=2024年6月度
- 2024-05-02セブン&アイが「生成AIファースト」宣言!意欲的な活用戦略と最新事例を語る!
- 2024-06-25インフレ、経済正常化で明暗!小売業の上場小売業2023年度決算と24年度展望
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2023-08-09カインズ、ニトリ、カスミ…DX先進企業に共通すること、DXの進め方とは
- 2024-02-28速報!セブン-イレブンの「SIPストア」ついに開業 写真で見る新コンセプト店の全貌とは
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-07-24拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
関連記事ランキング
- 2024-07-10イオンVSセブン&アイ 株主優待が示す2社の「大きな差」とは
- 2024-07-18ホームセンター月次実績=2024年6月度
- 2024-05-02セブン&アイが「生成AIファースト」宣言!意欲的な活用戦略と最新事例を語る!
- 2024-06-25インフレ、経済正常化で明暗!小売業の上場小売業2023年度決算と24年度展望
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2023-08-09カインズ、ニトリ、カスミ…DX先進企業に共通すること、DXの進め方とは
- 2024-02-28速報!セブン-イレブンの「SIPストア」ついに開業 写真で見る新コンセプト店の全貌とは
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-07-24拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
関連キーワードの記事を探す
ダイオーズ、自社運営のフードデリバリーで「冷凍弁当」の取り扱いを開始 !そのねらいは!?
小売業の衛生対策 来店客、従業員の安全安心を第一に各種衛生対策に力を入れる
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
酒井真弓のDXトレンド最前線、ハンズやニトリが活用、店舗とECの壁を壊すスタッフ起点のDX
デジタル200人態勢!ニトリホールディングスが内製化でDXを進める理由と成果とは