飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している韓国アパレル企業Dholic(ディーホリック)のビジネスモデルを解明したい。驚くことが分かるはずだ。5年後のアパレルの世界は、中国・韓国のブランドが入り乱れる混沌とした世界が待ち受けている。付加価値のない中間流通(卸)は淘汰され、もっとも効率の良いD2C(消費者への直接販売)モデルが世界を席巻することになる。
中韓アパレル、コロナ後の業績は下降気味
コロナが明けてから、日本の多くの企業が過去最高益を出している。巣ごもりからの反動である「リベンジ消費」、超円安によって訪日外国人にとって割安な価格になったという2つの要因から、どのアパレルも大きな利益をだしているのだ。しかし、日本で展開する韓国、中国のアパレルは相対的に客足は戻らず苦戦しているという。中には赤字企業もあるとのことらしい。
そうしたなかで、このDholic(ディーホリック)という会社は、私がもっとも注目している企業で、日本で約150億円の売上を上げている。
シーインと全く同じビジネスモデル
日本のDholicは「当社は在庫はもっていません」というが、在庫がなければ受注生産しかない。私が「では、全品受注生産ですか」と聞くと、「いえ、東大門(トンデムン)市場の縫製工場から、余った在庫を直送させています」という。つまり、キャンセル、返品、企画の変更など色々な理由で東大門に滞留している在庫を、それを欲している人とマッチングしているのである。
韓国ではこうしたビジネスモデルは当たり前のようだ。彼らは「顧客」と「商品」をマッチングする技術をECで行っているに過ぎないのだ。私は、「そんなことが当たり前なら、競合も同じ商品、こちらも同じ商品を売る状況になってしまい、結局は価格競争に陥るのではないですか」と聞く。
それに対して「いえ、服というのは、服単品でビジネスをするのでなく、背景やモデルの着こなしのミックスで売るモノです。つまり、うまく売る会社が勝つ」と胸をはって答えた。なお、Dholicは売上の90%をECからあげている。
なるほど。同質化すると思っていたが、上手に売れば写真の”ささげ”で差別化ができるのである。また、消費者も同じ服が複数のECに売っていることを知っており、欲しいと思った服があれば、複数のECを見て価格などを比較して購買しているのである。
Dholicが最も参考にしているビジネスモデルはShein(シーイン)である。彼らも残反、残品を拾い、どさっとECに出している。Dholic側もSheinのことを調べていたところ、最も正確で本質をついていたのが私の分析だったということらしい。Dholicは過去2回ほど「エセコンサル」に騙され、業績を悪化させた経験があり、コンサルからの営業はシャットダウンしているのだが、「あの河合さんなら」ということで、私はDholicに会えたのである。
「日本ではD2Cの80%が失敗しているんです」
と私がいうと、「韓国も中国も元来『もの作り国家』で、日本や米国、欧州の先進国のものづくりを受け持っているため、例えば、Dholicでいえば産業クラスター(集積地区)ができあがったんです。だから、われわれのようなビジネスモデルが成立するんです」と返す。尾州、山形、新潟など、日本にも産業クラスターがあったがが、今は閑古鳥が鳴いてしまっている。
驚きのアジアンビジネスの本質とは
「Z世代」起点にトレンドを遠くまで届ける
さて小売業では商品を選定する職種として、「バイヤー」と「マーチャンダイザー(MD)」の2種類がある。「MD」というのは、自社ブランドを企画し、納品配分や納期を自社で決める人だ。一方バイヤーは企画機能を持たず、「セレクト機能」だけを持っている。Dholicにはコスメ事業とアパレル事業の2つがあり、それぞれにMDではなく、バイヤーがいる。特に「韓国コスメは日本ではよく売れる」という。
さて、非常に効率的なビジネスを展開しているDholicをはじめとする中韓アパレルだが、なぜコロナ明けでも業績は悪化したままなのか。逆に、いままで中途半端といわれていた中間価格帯の服の方が売れているのはなぜなのか。
これは、人の心理として、リベンジ消費や円安などによる価格優位は、高額商品に効くからだ。つまり、普段百貨店などで高い値段で売っている商品こそ、「お得感」をより享受できるからだと考えられる。Dholicのような低価格帯を狙う商品は円安でなくとも、そもそもが安価な価格だ。だから、反動が生まれないのである。
驚くべきは、アジアでは歴史的に服の工場として君臨してきたため自然にD2Cが出揃う素地があったということだ。実際、東大門といえば日本の「ギャル服」の工場である。私は、「Sheinがマッチングサービスができたのは、ギャル服のもの作りの素地があったから」という大胆な仮説を展開してきた。だが、この説はかなり確度が高いと自負している。なぜなら、アジアの生産国のほとんどが、このやり方、つまり工場に企画機能やMD機能を配備しており、あとは、各社のアパレルバイヤーがその在庫をクラウド技術で掴み、自社のECのお客と工場の在庫をマッチングすれば大きな売上が作れるからだ。
これに対し日本は、繊維は国の基幹産業であったものの、今ほどデジタルを使った効率化やパーソナライズができず、産地をより安い場所へと「南下政策」を繰り返してきた。
この時代背景が生み出した差は非常に大きい。なぜなら、縫製工場から出てくる衣料品のターゲットは「Z世代」であり、ファッションの流行はこの「Z世代」を起点に、ウイメンズ衣料へ、そして、メンズ衣料へとスプリンクラー効果(水まきのように、より周辺の遠くまで『水(影響力)』をまく現象)を発揮できるからだ。もはやこれは仮説でなく、アジアンビジネスの形そのものだったということなのだ。
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デタラメD2Cはやめ、シンプルなバリューチェーンのアジアに学べ!
このように、Dholicの強さは、最も難しいといわれている「Z世代」をターゲットにし、Kポップアイドルをつかったコスメなどをフックにし、SNSを活用してブランド名を広げ、衣料品を販売するということにある。
流通構造を比べてみよう。日本は、工場だし(FOB)から、商社が流通し通関、税金払いを行い、アパレル企業がブランド名をつけ在庫を持ち、小売に渡した後に各店配送を行って売上を上げるなど、極めて長い流通構造を持っている。流通構造が長くなればなるほど、途中で余計なコストが発生するうえ、時間もかかる。
これに対し、アジアンバリューチェーンは、本社がデジタル管理を行い消費者が選んだ商品をダイレクトに工場へ発注し、帳合い(出荷と同時に仕入と売上を同じタイミングで上げること)をするビジネスがスタンダードなのである。いかに、流通構造がシンプルかがわかるだろう。
私が残念に思うのは、このような先進的なビジネスモデルの源流の多くは、実は「日本発」ということだ。例えば、シックスシグマという改善手法があるが、これもブラックベルト(黒帯)という審査対象があり、シックスシグマ・マスターと呼ばれるKing of teacherになることが可能だ。言わずもがな、ブラックベルトとは柔道から来ており、黒い帯を締めることができる人は、このシックスシグマのトップコーチとなる。その他、トヨタ・カンバン方式はサプライチェーンマネジメントになる。私は双方の改善プロジェクトに携わったが、源流は日本にあるにも関わらず、シックスシグマはアメリカ人から教わった。
本質を見抜く力が弱い我々日本人は、「秘伝のタレ」を門外不出として隠そうとする。その気持ちは分からないでもないが、私たちは世界企業と競争しながら国際競争力をつけているのだ。秘伝のタレは、コンサルタントなどを使ってフレームワークとして次世代へ残してゆくべきである。オープン化しなければ外資が日本にやってきて日本企業の競争力を次々に奪ってゆくだろう。こんなところにも、日本人の戦略思考の弱さを感じざるを得ない。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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