GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
肉や魚は必需品、ファッションは必欲品
この2つは同居しない
さて私が、「魚や野菜とファッション衣料は同居しない」という結論に達したのは、この時からさらに遡ること5年、今から約10年前のことだ。ある財閥系商社に頼まれ、OEM先のGMSの「平場改革」という名のカイゼンを手伝っていた。その商社は、西のアパレルの帝王ワールドに複数の専任人員を送り込み、今で言う常駐ビジネス(後に、ユニクロに採用され業界スタンダードとなった)を展開し、ワールドのクイックレスポンスに対応していたのである。これをこのGMSに導入すべく、新しいブランド企業を立上げ平場に展開したものの、惨敗していた。そこで、ターンアラウンドの名手ということで私が傭兵されたのである。
要因と勝ち筋を分析するため、私はあらゆる調査を行った。そこで、ハッキリとでてきたのは、いわゆる商品には、「必需品」と「必欲品」があり、野菜、コメ、水などは「必需品」で、ファッション衣料は「必欲品」であるということだ。そして、私が当時在籍していたカートサーモン社では、必需品事業をハードラインビジネス、そして、必欲品事業をソフトラインビジネスと呼び、私は必欲品事業のトップを担っていた。
海外では、この「ハードライン」、「ソフトライン」は別物として扱われ、KFS (成功の鍵)も違うといわれている。当時私はその商社に乞われて、その商社の人間とともに出資先の改革を行う、という私が「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)で書いた「商社2.0」のビジネスモデルの検証を行っていた。
しかし、その商社からは「本件は、私たちがワールドで成功した手法だからスーパーマーケットでも通用する」という理屈の元進めていたものだった。だから私には、「それが間違っているという診断結果はださないでいただきたい」というリクエストもあった。
一方私は、当時から調査・分析して明らかになった事実を隠蔽、あるいは違う結論を見せることはコンサルとして死を意味するという信念に似たものがあった。
そこで自身の信念と商社からの依頼が矛盾することがないよう、調査・分析フェーズを外に見せることなく、ただその結果を踏まえて、マルイ支援時に著しい成果を上げた「店頭のモチベーションアップ・プラン」を実行したのである。
マーチャンダイジングにも、もちろん問題はあった。しかし、マーチャンダイジングも政治的意味合いから触れてはいけない聖域だった。本質的な部分に手を下すことを禁止され売上を上げるというかなり難易度の高いプロジェクトだったのである。
毎週のように東北から名古屋、関西まで店という店を訪問し、店長会議で「一週間前と比較して最も成長したチーム」「売上高のコスト費率が最も低いチーム」「売上の絶対額が大きいチーム」など、評価を一律にせず、その店が置かれた状況にあわせてKPIを変えて改善を図っていった。忙しい社長のビデオメッセージも録画し、店長会議で放映しながら、私の講演も実施し、ナレッジマネジメントを繰り返していった。
その結果、全店舗で売上はなんと15%も伸び、なかには30%も超えた店舗もあった。大きな成果を上げたと言えるだろうが、現実に「利益を出す」という観点からいえば、実はそもそもがムリな課題であった。なぜならブレークイーブンに持っていくまで、40%の売上アップをしなければならなかったからである。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
河合拓のアパレル改造論2023 の新着記事
-
2024/11/07
同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ -
2023/12/26
「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは -
2023/12/19
衝撃!SPA業態そのものには優位性がない、本質的な理由とは -
2023/12/12
日本のアパレルは勝てない!Z世代起点にするDholiCのビジネスモデルを解明! -
2023/12/05
半分以上のビジネスパーソンが勘違い!キャッシュフローと運転資本を正しく理解する方法 -
2023/11/28
仕事激変で商社の競合はコンサルに!人生を自分で切り開くための方法とは
この連載の一覧はこちら [49記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-11-16ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2024-08-27好調アパレルに異変?在庫回転率悪化の複数要因とファストリ改善の理由
関連記事ランキング
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-26イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-12-03ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略