ChatGPTの衝撃!アパレルに起こす「接客大革命」と競争優位性への影響とは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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Chat GPTはアパレル業界の接客を激変させる!

Galeanu Mihai/istock
Galeanu Mihai/istock

 さて、大事なことは「こうした技術がアパレル産業をどのように変えるのか」という視点である。

 まず、幾多の秀才が、コンサルタント、あるいは投資家の立場でアパレル産業にはいり自滅する様を幾度も見てきた。彼らは、アパレル産業の表面しか知らないため、総合スーパー(GMS)や食品スーパーの衣料品版だろう、ぐらいにしか思っていないのだろう。だから彼らは「どうせやるならかっこよい方が良い」と考えがちなのだが、アパレル産業が、他の小売業と決定的に違うのは、「良いもの」の定義が非常に難しい点だ。例えば、「コスパ」(良さと価格の二軸で競争優位に立つこと)勝負で行く場合、価格という数字は嘘をつかないが、「良さ」というのが非常に曖昧で難しい。

 例えば、それは「ブランド」や「デザイン」「機能性」だったりする。そうしたなかで、アパレル産業において、ChatGPTが破壊力を十分に発揮するのは「接客」だろう。一方、ChatGPTは確かに凄い技術だが、例えば倫理的にNGな表現まで制御できないため、知的レベルが低い意味不明の人の会話でも、その文脈と目的をとらえて返事ができるため、大げんかになる可能性もあると複数のメディアが指摘している。

 これについては、私のチームのAI担当が、「すでに技術サイドではパラメータのチューニングによって過学習(AIの学習を制御する)技術は当たり前になっており、また、儒教、イスラム、リベラル、保守など、様々な思考から生まれるアウトプットをパラメータ化することは可能になっている」と説明する。いわゆるメディアが報道するスピード以上に技術進化のスピードは速いのだ。

会話の領域でシンギュラリティはすでに来ている

 こうした技術の進化が人間の思考に届かないのは、どういう場合だろうか。いわゆるインプットとアウトプットが連続して連なる一連の思考をリニア思考と呼ぶなら、ゼロからイチを生み出す、クリエーションの世界をノンリニア思考と呼び、古くは仮説思考やゼロベース思考などといわれていた。

 ではこの「ノンリニア思考」はまだAIにはできないのかというとそんなことはない。私の過去の論考を読んでいただければ分かるが、すでに、AIは、画像生成と呼ばれる技術で、ヒットの要因をいくつかつまみだし、それを合成して全く新しい(今まで世にだされていない)デザインを生み出すことができる。これは、ノンリニアなプロセスに他ならない。プロセス制御するPLMでさえ、すったもんだして一社もまともに動かせていない状況下で、これだけ高度な技術を使いこなせるのかという疑問がのこる。

 人間が生み出す「ゼロ→イチ」のクリエーションは、必ず何かしらの経験則によって生み出されるのか、あるいは、全くゼロから生まれることも可能なのかは古くから議論されていたが、どんなに腕の立つクリエーターでも、その思考の源泉は、いわゆる経験則から生まれるとみるなら、技術はすでにそこに到達しているのである。いわゆるバズワードでいうなら、会話という領域においてはすでに技術の世界では「シンギュラリティはすでに来ている」という。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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