「デジタル化と小売業の未来」#12 ユニクロのEC化率が伸びない意外な理由
日本のUX改善は限界値に
ユニクロが純粋な売上に対するEC化率をKPIに設定する事は本質的には外れており、実際には「EC経由の売上」も含める必要があります。日本でEC化率が伸びないのは、そもそも国土面積が狭いという事情と、店舗受け取りが日本におけるスタンダードになってしまうからだと考えられます。

米国の場合、日本とは異なり国土が広く物流拠点から住宅地が遠いため、未だにアマゾンでも当日や翌日配送のカバー率はかなり低く、物が届くということに対するUXの改善の余白はかなり残されています。一方で、日本ではすでに物が届くまでのUX改善の限界値がきてしまっているため、今後も大手を中心としてそこまでEC化率は上がらないという予測が立つのです。
ワークマン(群馬県/小濱英之社長)の専務取締役土屋哲雄氏にお話を伺うと、同社の戦略ではとにかく店舗が重要で、当初1000店舗の展開をめざす予定だったものが、今では3倍の3000店舗に増やすという目標に変わっているとのことです。
日本の場合は、店舗が消費者の身近にあって「商品の受け取り場所」という役割を果たすことが、結局は買物するうえでの体験として非常に重要なのです。アマゾンをはじめとする海外で強いプレイヤーになぜ国内の企業が勝てるかというと、消費者からも要望が多い受け取り場所をしっかり押さえていることがポイントになっているのです。
このように、独特な発展を遂げている日本市場では、一概に売上だけを見たEC化率の設定がKPIに向かない理由をご理解いただけたでしょうか。ECでの買物が浸透した今だからこそ、消費者が求める価値の変化をキャッチし、リアル店舗が担う役割を追及することが大切です。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。
前の記事
「デジタル化と小売業の未来」#11 アマゾンで買物する人が失敗を恐れない理由

「デジタル化と小売業の未来」#13 若者の間で広まる「ストップウォッチショッピング」「ウィッシュリストショッピング」とは何か?
デジタル化と小売業の未来 の新着記事
-
2025/03/17
EC業界の生成AI活用事例1 文章作成からデザインまで大幅な工数削減を実現! -
2025/01/27
小売業をより進化させる!生成AI活用7つの領域とは -
2024/12/19
AI投資で関心の高い6領域は?生成AI、小売業の期待と課題 -
2024/06/18
物流「2024年問題」に対応!物流拠点分散化のメリットと可能性 -
2024/05/13
中小企業でもECの翌日配送を実現できる『物流拠点の分散化』とは -
2024/04/02
配送料も続々値上げ…迫る「物流の2024年問題」が小売業界に与える影響
この連載の一覧はこちら [42記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ),無印良品(良品計画),ワークマンの記事ランキング
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2023-09-13商品はワークマン女子と全部同じなのに、「ワークマンカラーズ」が新業態と言えるワケ
- 2025-11-04ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”
- 2025-10-14良品計画、営業収益1兆円突破めざし海外事業に本腰
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2022-11-29シーイン模倣騒動と大差ないアパレル業界のパクリ体質 シーインがそれでも勝つ理由
- 2023-01-13ワークマン、“最強の新業態”1号店を新潟県に出店! 店舗取材で聞いた「最強」の理由
- 2024-04-02エクセル経営からPython活用へ!ワークマンがデータ分析を高度化させるねらいとやり方とは
- 2024-12-18良品計画、清水智新社長が語る、良品計画の意欲的な成長戦略
関連記事ランキング
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2023-09-13商品はワークマン女子と全部同じなのに、「ワークマンカラーズ」が新業態と言えるワケ
- 2025-11-04ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”
- 2025-10-14良品計画、営業収益1兆円突破めざし海外事業に本腰
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2022-11-29シーイン模倣騒動と大差ないアパレル業界のパクリ体質 シーインがそれでも勝つ理由
- 2023-01-13ワークマン、“最強の新業態”1号店を新潟県に出店! 店舗取材で聞いた「最強」の理由
- 2024-04-02エクセル経営からPython活用へ!ワークマンがデータ分析を高度化させるねらいとやり方とは
- 2024-12-18良品計画、清水智新社長が語る、良品計画の意欲的な成長戦略
関連キーワードの記事を探す
国内ユニクロ事業が売上収益1兆円を突破 ファーストリテイリング本決算を徹底分析
アパレル売上ランキング2025 ファストリの売上高3兆円台に!
百貨店を生活商圏型SCに転換!「ららテラス川口」の全貌と戦略とは?
〇〇といえばイオン、無印良品といえば〇〇……ドンキも取り組む「想起」の戦略
良品計画の25年秋冬新商品戦略 衣料と生活雑貨は定番商品を磨き上げる!
「ESG経営の第一走者」を標榜 無印良品の環境・社会配慮型商品開発の全容



