サステナブル・ファッションは救世主か?アパレル業界でトレーサビリティが進まない単純な理由
環境省が掲げる、サステナブルファッションの中身とは
「アパレル産業と私たち消費者は、今まで間違っていた。企業は大量生産し、私たち消費者も無駄に大量購入し大量破棄をしていた。その結果、大量のゴミが破棄されCO2が地球の生態系を破壊。何気なく着ているTシャツ一枚とっても貴重な資源である水を汚染させ有害農薬をまき散らす。ファストファッションにいたっては、安すぎてどうもおかしいと思っていたら、生産拠点であるアジアの工場では現地の子供を働かせ、先進国と金儲け主義の企業からのコストプレッシャーから安全設備に対して投資もできず、結果、縫製工場は倒壊。千人単位の命を奪っていたことも映画をみてよくわかった」
アマゾンのDVD「The true cost」で山のように書かれたレビュー欄を要約するとこのようになる。今、アパレルに無関心な人でも、それなりの知識のある人であれば、この程度の「常識」は知っているようだ。
さて、そこでサステナブル・ファッションである。環境省のホームページにデカデカと書かれた「Sustainable fashion」の文字。そこには、ファッション商品の原材料調達から店頭に届くまでのCO2排出量、水の消費、水質汚染など環境負荷が具体的な数字が掲載されており、「より安く、より多くっていいこと?」と書かれ、例のお決まりのチャート。すなわち、1990年に市場規模15兆円、20億点あった投入量が、2019年には10兆円、35億点となり、平均単価は6850円から3200円へと半額以下に落ち込んでいる実態が示されていた。
単純な計算にしばしお付き合い願いたい。この20年で、平均価格が約50%減っているのに、投入量は57%増加、35億点となっている。相殺すれば7%の供給量 (金額ではない)のプラス。しかし、市場規模 (金額)が15兆から10兆へ約30%減っているわけだから合計37%、数量でいえば約13億点の供給過多ということになる。環境庁はこの中の34%がリサイクル、あるいはリユースされているも、逆数である66%、約9億点が埋め立て、あるいは、破棄されていると算出している。
実務に詳しい人であればわかると思うが、すべてのアパレルがワンシーズンでライトオフするわけでなく、当然、翌年度に持ち越(キャリー)される、あるいは、「神風がふく」までバランスシートに資産として隠している在庫もある。そのため、少なく見積もって9億点のうち30%程度を持ち越すとしよう。するとこの5年で、3億円×5年=15億点が積み上がり隠されていることになる(実際は、昨年度以前の投入量は40億点といわれさらに余剰在庫は多くなる)。そこに、さらに35億~40億の新規点数が積み上がるわけだから、消費者に売られる分母は50~60億点近くになることになる。恐ろしい数だ。
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