計算式不要!アパレル の資金繰りを助けるOTBの使い方実践講座

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
Pocket

資金繰りはアパレルビジネスの生命線

 余談ながら、店舗数の多い少ないを見極める方法は単純だ。店舗ごとの損益計算書(PL)を横に並べ、黒字店舗の売上原価と販管費、在庫評価などの特損の売上高比率の加重平均を算出する。これを「勝てるフォーマット」という。逆に、赤字店舗を横並びにし、これも原価、販管費、在庫評価損の売上高比率を加重平均すれば、「負けフォーマット」が分かる。

  新たに出店した店舗が、「勝てるフォーマット」に近いのか、「負けフォーマット」を繰り返しているのか。後者であれば、そのブランドはすでに市場で飽和していることを意味する。「ブランド出店の上限は500店舗まで」など、過去の「思う・感じる」から来る、なんの根拠もない都市伝説など信じてはならない。アパレルの都市伝説など、すべて論理的に考えれば科学的分析手法は見えてくる。

 さて、話を仕入れにもどそう。ここで商品投入計画から商品発注計画と商品仕入れ計画の二つを立てるわけだが、商社経由で仕入をしている場合、アパレルは、あくまでも完成品の仕入れしかしないため、キャッシュフローの観点から気にするのは「商品仕入れ計画」である。

  一方、直貿が増えたアパレルは、商品発注計画の段階で素材の約定を入れるため、商品発注計画の段階でキャッシュアウトが発生し、この段階でキャッシュフローを見ている財務部との密な連携が必要となる。商社金融に頼っていたアパレルが、PLしか読めないため、商社外しをして現金が回らなくなるということはよくある話だ。特に、日本のアパレルはほぼすべてが非上場企業であり資金も潤沢にあるわけではない。さらに、素材を別注にするなど発注時点と仕入れ時点の期間ズレが長いほど、直貿化をすればキャッシュフローが悪化する。資金繰りはアパレルビジネスにおいて生命線なのだ。経営者は、この構造をよく理解してもらいたい。

 無理な事業計画が余剰在庫を生む

 さて、こうした伝統的MDの組み立て(本当は、計画時にはもっと細かい計算をしていることは十分わかっているが、あえて話を仕入れに絞るために簡略化した意図をくんでいただきたい)は、そもそも「お上」から指定された売上目標1億円に対して、実際の売る力は7000万円しかないということにお気づきだろうか。つまり、この予実売差(ばいさ 実際の売上と計画の売上の差のこと)は、つねに計画が上である。「お上」からしてみれば、「努力と根性で30%をなんとかするのが、お前ら現場の仕事だろう」ということになるのだが、現実は、市場は縮小し、ビジネスモデル自体が旧態化し、ユニクロなどグローバルSPAを除く、他のアパレルとの競争力の差はほとんどないため、計画未達が常態化することになる。

 GMSのアパレル 改革のケース

 私は、ある総合スーパー(GMS)の「平場改革」などという格好良い言葉に乗せられ、1階に生鮮食品が置いてあるGMSの2階に、若者を呼ぶほどの格好良い衣料品売場をつくるという名目で立ち上がったブランドの店舗改革を手伝ったことがある。

 私は、幾度も「これは、本質的に無理だ。そもそもGMSの2階にはシニアしかこない。やるなら、タオルやら下着など実用繊維製品に絞れ」と幾度も上申したのだが、ブランド側、GMS側双方にプライドがあるようで、「どうしても譲れない」といって聞かない。今なら、お断りするだろうが、当時はまだ若く、「ならやってみるか」と毎週のように日本全国で店長会議を開き、夜は飲み会を開催してやる気を鼓舞し、会議では、そもそも無理な予算を、努力で見事達成した店長にスポットライトをあて、その手法を日本の店長全員に共有するなど、制約条件の中でできることはすべてやった。

  その結果、売上は120%ぐらいに伸びたと思うが、そもそもブレークイーブンまでの距離が170%ぐらいあった(要は、最初から無理だった)ため、ブランドとGMS側の喧嘩が激しくなり、最後はとうとう喧嘩別れすることになった。私は、幾多のアパレル小売のターンアラウンド(再建)業務を通し、店舗スタッフのモチベーションをあげれば、売上は大きく伸張することを知っていた。アパレル不況と言われる中、また、そもそも、シニアしかこない場所で若者のブランドを売るなど、的外れな戦略にお付き合いしながらも、20%も売上をあげた自分を褒めたいぐらいだった。だが、この再建は高く評価はされはしたものの、再生途上で中止となった。

  このように、無理な売上計画というものは、事業構造や戦略を大胆に変えなければ、いかに全社的な改革を行っても、現状維持、あるいは5%あがれば良い方である。多くのケースにおいて、アパレルの売上は昨対比割れを起こし、特に、現在のように間断なく、散発的に緊急事態宣言が発令されるような状況下においては、計画など夢のまた夢、昨対比さえも遙か彼方に行ってしまうほど大きく下回ることになるだろう。つまり、本来は経営者がやるべき仕事である「事業モデルの大胆な改革」をせずに放置し、すべてを現場の責任に押しつけ、無理な事業計画によって計画と実績の差は巨大になり、結果、売れない在庫が積み上がってゆくのである。

1 2 3 4 5

記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態