先日、あるテレビ局から「サステナブル経営」について取材を受けた。確かに、最近のアパレル業界は「サステナブル」一色で、それらをあえて包括すれば、リサイクルの素材を使って作りすぎを無くし、ゴミとなってでてきたものは再利用するという、食物連鎖の絵のようなものを紹介しているモノばかりである。本当にそれが「サステナブル経営」の本質なのだろうか?
「サステナブルだから売れる」という勘違い
ある調査会社は「消費者はサステナブルなファッションを求めている」と言い、マーケティング的観点からサステナブル・ファッションを提唱している。また、あるメディアは、アパレル産業が生産時に排出する環境破壊の薬品、二酸化炭素などをやり玉にあげ、最後は、非人間的なアジアの労働環境に焦点をあて、人道的観点からサステナブルを推奨していた。
これらに共通しているものは、その裏側に何ら哲学も世界観も見えないということだ。くずシルクやくずコットンでつくった服が売れるというなら、新宿や渋谷で女子達が買っている購買行動を見れば良い。「サステナブルだから売れる」というのは、そもそも日本語の意味が不明である。また、「作りすぎだ、けしからん」などと叫んでも問題解決にならないことは前号で伝えたとおりである。
わらにもすがりたい産業崩壊寸前のアパレルに体の良いキーワードが現れただけだ。サステナブルとは、売るためのキーワードなのか、それとも、我々がアフターコロナの時代に生きてゆく「社会環境」のことなのか、はたまた産業活動全体として守るべき世界的とりきめなのか。アパレル業界は全く考えていないように見える。
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サステナブルを生活環境・社会環境と捉える
ビフォー・コロナの世界。人の生活は1対9ぐらいの割合で、オフィスワークが中心だった。だから「ワーキングレディ」の仕事着にトレンドが移った。ユナイテッドアローズのグリーンレーベル、TSI Holdingsのナチュラルビューティーベーシック、JUNのロペピクニックは、ワーキングレディ御三家といわれ、働く女子の戦闘着になった。このように、ファッションというのは、我々を取り巻く社会環境と極めて相関性が高い。サステナブルを、私たちが生活するための環境であると思えば、いろいろなことが整理できる。
人はものに溢れ、情報は無価値(無料)となっている。今、就活中の学生に「日経新聞をとっているか」と聞けばNoと答えるし、「100万円金があればどうするか」と聞けば、将来のために運用して増やすという。彼らは、一応、大企業には入るが、力のある学生ほど「大企業は3年で十分。そこからは起業する」という人も多くなり、最近では財閥系商社を辞めて、私と自由に産業再生をしたいという社会人まででてきた。上場株を買っても大儲けすることはまれで、今、一番儲かる株は非上場株。つまり、プライベートエクイティだ。ここからも、すでに経済成長の天井は見えているということだ。
こうした変化のパズルをとけば、そのメカニズムは明らかだ。時代が変わり、人の経済活動がこれ以上成長しないということなのだ。大量生産すれば消費者が大量消費をしてくれた。しかし、人はものを買わなくなった。正確に言えば「必要なくなった」のである。サステナブルファッションやくず原料を使えば、消費者は消費するなどというのは勘違いも甚だしい。サステイナブル社会とは、我々がこれから迎える「社会環境」であり、その環境下でビジネスをする「生活環境」なのである。
循環型経済で、人の暮らしと衣服はどう変わるか?
サステナブルは、マーケティング的な観点から語るのでなく、経済活動の行き着く終着点と捉えるべきだ。今まで人類が経験したことがない社会へ突入してきたということなのである。
循環型経済のなかで人の生活は大きく変わる。ビフォーコロナの世界が、1対9が自宅と職場だとすれば、3対3対3ぐらいで、自宅、職場、社会活動のようなバランスになるだろう。そうなると、当然、スーツは売れなくなり、健康維持のためのスポーツ、自宅、仕事着がシームレスになる。だから今、スーツにスニーカーを履き、ネクタイなど締めずニットやモックネックにジャケットというスタイルが流行る。
ついでにいえば、ジャケットとカーデガンの境目はなくなり、今売れているものはジャージ素材のジャケットやポリエステル混(弱いストレッチでしわがつかない)ばかりだ。そこには、クラシコと呼ばれるテーラードはない。
また、ユニクロが売れるのは、ベーシックで着回しがよく、自宅でも職場でも、着こなしによって着回せること、加えて、何年も持つ強さがあるからだ。おしゃれを楽しみたい人は、できるだけ安い価格で寿命の短いファッションを楽しむのは必然なのだ。だから、百貨店のようなチャネルで高価格商品を“ファッションで売る”などのビジネスに全く未来はない。ならば、ルイ・ヴィトンのように、高くとも何年でも使え、その気になればブランド買取センターにもってゆけば高値で売れるものしか高額商品は消費者は買わないだろう。
このように、オン(仕事)、オフ(自宅)、オフ(外出)がシームレスになった。私も組織から出て行き、5社と契約し生計を立てており、一つの組織に属さない自由の元、ワークライフバランスを保っている。私は、基本的に仕事はほとんど自宅でやっているし、移動はすべてクルマだ。ミーティングは可能な限りZoomやTEAMSをつかっていて、本当に大事なときしかフェイス・トゥ・フェイスの話し合いはしない。こうした仕事の仕方をする人は実際増えているし、今後も増え、定着するだろう。
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循環型社会で企業戦略は激変する!
企業戦略も変わる。私が予言したように、アパレル企業のほとんどは死に体となっており、政府の指示で銀行が下支えしているだけで、いつかは連鎖倒産が起きると予測したのだが、先日の日経新聞によれば、銀行の不良債権を買い取り、再生をするファンドを立ち上げるという。私は、こんなときこそ企業競争力と卓越した戦略を持つ「真の改革者」を活用し、業界再編を推進せよ、提唱してきたのだが、お役所はとにかく入らぬ手を下し、将来の返せない借金を増やしているように見える。そんなことをすれば、コンサル会社やIT企業の仕事が利権化するだけで、産業の新陳代謝は起きないし日本という国は全く変わらないし、どんどん国の競争力は落ちてゆく。
さらに、最近の私の仕事は、「競争から協創へ」というキーワードの通り、これまで競争相手だった企業が手を結び、新しい化学反応を期待した事業を推進しはじめ、私はその取り次ぎ役のような仕事も開始した。国民の税金をつかった事業は、公開が原則で守秘性はないため、学生が殺到しこうした社会変革を一緒にやりたいという人からの連絡が多くなった。
これからは、ポストキャピタリズムに対する国ごとの「幸福の定義」も必要になる。イギリスのようなPFI(Private finance initiative)や、資本家のいない生活協同組合のような業態に近い事業も生まれるだろう。実際、私の最近の再建の仕事は、単なる競争戦略の枠を超え、公的資金を活用し地場産業を救う、あるいは、公的資金と私的資金の融合をモデルとした、新しいビジネスモデル設計もやっている。
従来の強いものが勝つという論理では、繊維産業のように、5年ごとに産業がリセットし産地移転してしまう業界は、本来、例えハードは産地移転しても、ソフトは国に残すべきだ。先人達の英知を絞って積み上げた匠の技や技術は承継されてゆく。公的資金は、こうした営利目的でない産業LABOなどに使われることになる。いわゆる、私の知財LABO構想である。具体的な企業名はいえないが、蓄積したデータを企業群に公開し、ゆるやかなネットワークを構築したプラットフォームを作る動きもある。
このように、私たちを取り巻く環境は大きく変わっているのだ。これ以上成長をしない社会の中で、成長を前提とした企業は何をすべきなのか。これこそ、人の生活をささえる衣食住の「衣」を手がけてきたアパレル産業が先導してやるべき仕事なのだ。
サステナブル社会における装いを提案せよ
サステナブル社会というのは、「これ以上の成長を望まない」社会と向き合い、環境破壊に繋がる過剰生産を止め、循環型経済に移るということである。そうした中で経済活動そのものを再定義し、従来型の物販を中心とした経済活動は後進国へ投資するか先進国で事業をするなら、ほどほどにせよということなのだ。くどいようだが、くず原料をつかってリサイクルすれば売上を上げて成長できるということではないのだ。
こうした環境下においてアパレル業界は、すべてのバブル時代の「ブランド」をリセットし、循環型経済の全く新しい事業(ブランド)をゼロベースでつくり各社が消費者に「新しい社会の中での人の装いとは何か」定義・提案することである。そして、そこから新しいブランドがうまれ、企業の個性が生まれるのだ。自動車業界だって、2030年からは、都内で販売される自動車はすべて電気自動車になる。アパレルだって、デザイン、素材、着こなしは2030年に大きく変わるはずだ。
そして、こうした本質的考察から、ECとリアル店舗の相互プレイが決まり、デジタル技術をつかったバリューチェーンの自動化、そして、私が提唱する特定の企業の技術を、皆でシェアしながら産業効率全体を上げることが可能となる。今のアパレルを見ていると、こうした本質的なところからブランディングしようという動きが見えない。結局、全体としての世界観が極めて明確なユニクロや無印良品などだけが世界で認められるのは、全体を連なる一貫性と世界観があるからだ。
このような、「新しい生活様式の提案」が見えないまま、すでに死に体と化した大量生産時代のブランドを生きながらえさせ、ECだ、AIだ、と事業全体の整合性を考えず、部分、部分の集合体として、それぞれの技術をつまみ食いをしているといったら言い過ぎか。
アフターコロナの世界では、Pythonが書ける理系人材が国の競争力を決める、などというのはとんでもない話だ。これからは、何が幸せなのか、という極めて哲学的な問いに対する答えをアパレル業界が消費者に提案する超文系時代が来る。ビジネスを哲学で語る書籍が売れるのはそれが理由である。今、アパレルは「売れるものは何だ」という、従来のモノマネビジネス、そして、成長が正義であるという成長経済の価値観から離れなければならない。
私が10年前に「ブランドで競争する技術」で提言した、「出島理論」を活用し、緩やかに古い事業と新しい事業を同時に走らせて、事業のトランジションを行うべきである。ECも、カスタム・オーダーも、PLMも、単に技術にしか過ぎないことをしるべきだ。これらの技術はすべて一体となり、本稿で提言した「循環型経済の中での人の装い」の提案に従って活用される。今、アパレル企業は本物のブランドをつくる時である。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)