間違いだらけのサステナブル経営 アパレル業界は「成長を望まない社会」の生活提案をすべきだ

河合 拓
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サステナブル社会における装いを提案せよ

モノが満たされた時代に、人はどんな生活様式を送り、そこに服はどのように位置付けられるのか、これを考え抜き企業としての哲学を提示することこそがサステナブル経営の本質である(Rawpixel / istock)
Rawpixel / istock

 サステナブル社会というのは、「これ以上の成長を望まない」社会と向き合い、環境破壊に繋がる過剰生産を止め、循環型経済に移るということである。そうした中で経済活動そのものを再定義し、従来型の物販を中心とした経済活動は後進国へ投資するか先進国で事業をするなら、ほどほどにせよということなのだ。くどいようだが、くず原料をつかってリサイクルすれば売上を上げて成長できるということではないのだ。

 こうした環境下においてアパレル業界は、すべてのバブル時代の「ブランド」をリセットし、循環型経済の全く新しい事業(ブランド)をゼロベースでつくり各社が消費者に「新しい社会の中での人の装いとは何か」定義・提案することである。そして、そこから新しいブランドがうまれ、企業の個性が生まれるのだ。自動車業界だって、2030年からは、都内で販売される自動車はすべて電気自動車になる。アパレルだって、デザイン、素材、着こなしは2030年に大きく変わるはずだ。

 そして、こうした本質的考察から、ECとリアル店舗の相互プレイが決まり、デジタル技術をつかったバリューチェーンの自動化、そして、私が提唱する特定の企業の技術を、皆でシェアしながら産業効率全体を上げることが可能となる。今のアパレルを見ていると、こうした本質的なところからブランディングしようという動きが見えない。結局、全体としての世界観が極めて明確なユニクロや無印良品などだけが世界で認められるのは、全体を連なる一貫性と世界観があるからだ。

 このような、「新しい生活様式の提案」が見えないまま、すでに死に体と化した大量生産時代のブランドを生きながらえさせ、ECだ、AIだ、と事業全体の整合性を考えず、部分、部分の集合体として、それぞれの技術をつまみ食いをしているといったら言い過ぎか。 

 アフターコロナの世界では、Pythonが書ける理系人材が国の競争力を決める、などというのはとんでもない話だ。これからは、何が幸せなのか、という極めて哲学的な問いに対する答えをアパレル業界が消費者に提案する超文系時代が来る。ビジネスを哲学で語る書籍が売れるのはそれが理由である。今、アパレルは「売れるものは何だ」という、従来のモノマネビジネス、そして、成長が正義であるという成長経済の価値観から離れなければならない。

 私が10年前に「ブランドで競争する技術」で提言した、「出島理論」を活用し、緩やかに古い事業と新しい事業を同時に走らせて、事業のトランジションを行うべきである。ECも、カスタム・オーダーも、PLMも、単に技術にしか過ぎないことをしるべきだ。これらの技術はすべて一体となり、本稿で提言した「循環型経済の中での人の装い」の提案に従って活用される。今、アパレル企業は本物のブランドをつくる時である。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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