#5 セブンの変化対応を上回る!セコマはなぜ世の中の変化を先取りできるのか
日本初「コンビニエンスストア」を掲げたのはセコマだった
こうした「変化を先取りする力」は、創業者である故赤尾昭彦氏の手腕によるところが大きい。そもそも赤尾氏がコンビニという業態に着目したこと自体、大手の動きを先取りしたものだったのです。
71年、札幌の老舗酒類卸・丸ヨ西尾の社員だった赤尾氏が、得意先の酒店の経営支援策として立ち上げたコンビニ事業がセコマの原点です。当時の道内は、コープさっぽろを筆頭にスーパーマーケットが台頭し、個人酒店は窮地に立たされていました。
<小規模ながら科学的な経営で成長している米国の新業態「コンビニエンスストア」>-。赤尾氏は職場で偶然目にした雪印乳業の広報誌の記事をヒントに、独力で情報を集め、酒店の店主にコンビニへの転換を呼びかけます。
そして71年8月、札幌市北区の酒店が店舗改装を機に「コンビニエンスストア はぎなか」をオープン。これが記念すべきセコマの1号店です。日本で「コンビニエンスストア」の看板を掲げたのは、恐らくこの店が最初でしょう。セブンが東京・豊洲に1号店を出すのは、その3年後のことになります。
セコマがPB開発を進めた“意外な”事情とは!?
コンビニの立ち上げで一歩先んじたセコマは、その後もセブンの成功事例を後追いしようとはせず、独自のビジネスモデルを築き上げていきます。そこには北海道ならではの事情もありました。
「専門業者の少ない北海道では、何でも自分で考えてやらざるを得ない」。赤尾氏は社長時代の04年、「チェーンストア・エイジ」(現在の「ダイヤモンド・チェーンストア」)の取材にそう述べています。
赤尾氏は「中小酒店の経営が苦しいのは、スーパーに比べて商品力が劣っているからだ」と考えていました。しかし、日本の最北にあり、広大かつ人口の少ない北海道は、力のあるメーカーや問屋が少なく、協業によって商品力を高めることは難しい。
そこで赤尾氏は、技術力はあるが、大手メーカーとの競争に苦戦する地場中小メーカーを傘下に加えるなどして、リテールブランド商品を自社製造する態勢を整えていきました。併せて00年前後には道内6カ所に自前の物流センターを建設。製造、物流、販売を一気通貫で手掛けることよって、全体でコスト競争力を高める仕組みをつくり上げたのです。道内全域に店舗を張り巡らし、格安の自社開発商品を供給できる理由がここにあります。
北海道の過酷な環境を逆手に取る発想は、現在の丸谷智保社長に代替わりしても変わりません。その一つが店舗の直営化です。人口減と高齢化が急速に進む北海道では、コンビニ経営者の後継者難も他の地域以上に深刻です。かといってオーナーの引退とともに撤退してしまえば、ほかに頼れる店のない過疎地の住民が困ることになる。このため、本部がオーナーから経営権を取得し、店舗網を維持するという方法を進めてきました。その結果、直営店比率は全体の80%に達しています。
こう書くと、仕方なく直営店を増やしているように思われそうですが、決してそうではありません。先述した通り、セコマは製造から販売まで一気通貫のビジネスを展開しています。直営店の増加によって本部の商品政策が徹底され、発注精度が増すことによって、生産ラインが効率化するというメリットがあるのです。
1年前、北海道が大地震と全域停電(ブラックアウト)に見舞われた直後、セコマの各店はすぐに「ホットシェフ」のガス釜でコメを炊いて温かなおにぎりを販売し、ネット上で「神対応」と称賛されました。これも直営化効果の一つと言えます。契約書で縛られたフランチャイズチェーン(FC)店に、こうした臨機応変の行動を求めることはできません。
セブンなど大手コンビニチェーンの隆盛を支えてきたFCシステムは、人手不足による過重労働、出店過多による売り上げ低迷といった市場環境の悪化によって、曲がり角を迎えています。過酷な北海道市場を生き抜くために考え抜かれたセコマのビジネスモデルは、低成長時代のコンビニをまさに先取りしているといえるのではないでしょうか。
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