しまむらもヤマダホールディングスに続くか 「大型自社株買い」の機が熟したといえる理由
ヤマダ、放置できない低株価
一般に、成長戦略の構えが出来上がれば、あとは事業で結果を出すにつれて株価は自ずとついてくると言えます。
しかし、ヤマダHDの場合は「あとは株価の上昇待ち」とは言えない事情があります。
なぜならば、同社の株価は一般に解散価値の目安とされる一株あたり純資産額を長らく下回って推移し、株式市場の評価が低いからです。5月27日終値ベースの株価純資産倍率は0.58倍です。
アクティビスト株主の存在はすでに指摘した通りですが、同社の事業インフラに魅力を感じシナジーを発現できる事業者がいても不思議はありません。(参考:拙稿「呉越同舟かそれとも… ヤマダが”仮想敵”アマゾンと組んで「Fire TV搭載テレビ」を売る深謀とは」)。
まして、業績が回復する局面で株価が低迷すれば、潜在的買収者には好都合となります。
具体的な買収提案が出れば、その当否はその時の株主の総意に委ねられるわけですが、現時点でヤマダHDの経営陣が手をこまねいている必然はありません。今すぐにでも株式市場から「選ばれる経営陣」として評価を高めることに損はないはずです。
低株価の最大の原因は低資本効率、すなわちROE(Return on Equity;株主資本利益率)が一桁台で推移していることにあります。
これに対して、今回の大型自社株買いは、直球の回答となります。
ROEの分子である純利益を中期計画に従って押し上げると共に、分母である株主資本を自社株買いによって削減し、さらにROE重視の経営を継続すると宣言したことになるからです。
筆者が今回の大規模な自社株買いに驚いたのは、単なるアクティビスト対策ではなく、より広範な既存株主や潜在株主(含む買収者)に対して、「選ばれる経営陣でありたい」と言う経営陣の意思表示を感じ取ったからなのです。
しまむらの境遇との共通点
さて、このヤマダHDの大規模な自社株買いの知らせを受けて、最初に頭に浮かんだのはしまむらです。それは、ヤマダHDとしまむらに共通点が多いからです。
業績が改善基調にあり(ヤマダHDの場合は底入れ段階)、しかし株価が割安で、低株価を放置できない環境にあるからです。
まず業績面。2018年2月期から2020年2月期まで3期連続で減収、経常利益減益になり、苦境を心配していました(ちなみに筆者は季節ごとに”しまパト”ショッピングを楽しむ長年のファンです)。
しかし直近2年間には増収に転じ、かつ懸案の在庫回転率も悪化が止まり、粗利率、経常利益率が回復しました。その結果、一時は5%割れまで落ち込んだROEが、2022年2月期には8.9%まで回復し、日本のカジュアルウエア大手として面目を保てる水準になりました。昨今の円安、原料高は気掛かりですが、アフターコロナ禍での消費者の外出増加とそれに付随する衣料品需要も期待できるので、過度に悲観する段階にはないと思います。
しまむらの株価、実は低い
潜在的な買収者の存在は?
次に株価を見ておきましょう。
現在の株価は11,020円(2022年5月27日終値)で、株価純資産倍率は1倍であり、ヤマダHDと比べても特に割安というわけではありません。
しかし、企業評価でよく参照されるEV/Ebitda倍率は約4倍にとどまります。
ちなみにヤマダHDは約7倍、ファーストリテイリングであれば約13倍ですので、いかにしまむらが低評価かお分かりいただけるでしょう。
EV/Ebitdaの簡易的な定義は
EV = 株式時価総額 + 有利子負債残高 – 余剰現預金
Ebitda = 営業利益 + 減価償却費等
となります。
そしてこの比率は、企業の株式と有利子負債を全部まとめて買い取るために必要な実質的な金額(EV)は、その企業の営業キャッシュフローの代理変数であるEbitdaの何年分か、という意味です。
筆者には、たった4年の営業キャッシュフローでしまむら全体を手に入れることができてしまうのはとてもお得に感じます。
しまむらとシナジーが期待できる事業者が今いるのであれば、躊躇せずしまむらを買収をしてみたくなると考えますが、いかがでしょう。買収資金についても銀行借入で半分程度は資金調達できるように思いますので、買収者側が用意すべき手元資金は見た目ほどかからず、投資効率の高い案件になると思います。
では潜在的な買収者はいるのでしょうか。
カジュアルウエア業界内では可能性は低いと思いますが、隣接する業界であれば、経営統合によって売上高、コストの両面でシナジーを発現できる企業はいくつかある気がします(あくまでも筆者の机上の議論ではありますが)。
ちなみに先ほどのヤマダHDは、家電量販トップの立ち位置を強化し活かすために、住宅建設、家具など隣接領域の企業をM&Aしてきました。これが先例になります。
しまむらの顧客は季節ごとに店舗に訪れて買い物をしてくれるマス層です。この顧客基盤を何よりも重宝する隣接企業は少なからずあるとみますが、いかがでしょうか。
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