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「そごう・西武」のゆくえとファンド による企業買収のロジックとは

私は、過去、アパレル業界の再編がおき、私たちの上司は外国人になると予測した。レナウンの経営破綻に続いて、現在では百貨店「そごう・西武」の売却のゆくえに注目が集まっている。
そごう・西武のゆくえと、なぜ外資系ファンドは、大赤字で市場規模も縮小する百貨店企業に数千億円規模の大枚をはたくのか?その企業買収の論理を解説していきたい。

そごう・西武に迫るアクティビストと売却のゆくえ

百貨店からスーパーマーケット、コンビニエンスストアまで幅広い小売業態を持つセブン&アイ・ホールディングス。同社に対して20221月、米国アクティビストファンド(株式保有する企業に経営改善を迫る投資ファンド)のバリューアクト・キャピタルが、複数の異なる小売を経営するのでなく、グループの中で最も収益の高いコンビニ事業であるセブンイレブンに集中するよう要求したことを各種メディアが報じている。

実際、セブン&アイ・ホールディングスは、コンビニやスーパー事業を除くとコロナの影響もあり、業績の厳しい企業が目立つ。21年2月期末の当期純利益は、そごう・西武が▲172億円、イトーヨーカ堂が▲37億円、バーニーズ ・ジャパンが▲27億円などだ。

セブン&アイ・ホールディングスは、アクティビストら株主から飽和した日本のコンビニ市場だけでなく、米国に積極投資をすることで急激な成長を実現するよう求められている。そうしたこともあり、米国コンビニエンスストア、スピードウエイを2.3兆円(約210億ドル)で買収し、莫大な有利子負債(借金)を背負った。それら株主は、赤字事業子会社を売却するなど再編し、セブン&アイ=コンビニエンスストアに経営資源を集中するよう促しているのである。

コロナ禍で、経営破綻したレナウンをはじめ、オンワード樫山や三陽商会などが合わせて2000店舗近くを閉鎖。地方百貨店も店数は減り続け、この10年で国内百貨店の数は250店舗から190店舗以下に激減した。三越伊勢丹も、物販から不動産と金融事業に軸足を移すなど、百貨店を取り巻く状況は変わり、百貨店アパレルの売上減少と、そこに卸していた商社のOEMビジネスの激減は産業界を大きく変えることになる。オンワードホールディングスは、「EC比率を50%まで高める」と明言し、グループ社長保元道元氏自らが事業会社であるオンワード樫山のトップとなり、経営首脳陣の大胆な入れ替えを断行。一方、三陽商会は222月期連結決算の下方修正を325日に発表、10億円の営業赤字となり6期連続の赤字となる。

ファンドが打ち出す「企業買収のロジック」とは

kuppa_rock/istock

さて、これからどんどん増える企業買収について、アパレル企業は正しい知識を持つべきだろう。人口減少と所得減少のダブル減少により日本市場に未来はないにもかかわらず、日本のアパレルのほとんどは日本市場に集中し海外に出ようとせず業績を悪化させているからだ。

この5年、日本の衣料品の生産量の半分が売れ残っていることは、環境省のサステイナブル・ファッションのページにハッキリと書かれている。この計算は、日本の大手シンクタンクが算出したものであるが、仮に企画原価率が30%で最終消化率が50%となれば、日本のアパレル企業は3年で、売上高と同金額の不良資産が積み上がり、6年で売上高の倍の不良資産が積み上がっていることになる。こんな状態になれば、当然企業の運転資本は毀損され企業は破綻する。

損益が黒字でも企業は倒産する

企業再生を専門にしている私が最初に分析するのが、キャッシュフローだ。中小企業であれば資金繰りである。企業は、いくら赤字が続いても金があれば倒産しない。だから、かなりの数の非上場アパレルは不良資産である在庫をバランスシートに隠し、不良在庫を時価評価しないのだ。こうすれば、損益計算書に時価評価された在庫の損失(通常は売上原価に含める)が出てこないので、一見利益がでているようにいえる。しかし、このように臭いものに蓋を閉めるやりかたは、いずれ行き詰まる。最近では、損益計算書に「補助金収入」などという勘定科目が見られるようになった。非上場企業で十分なキャッシュがあれば、むしろ赤字の方が節税効果が働く。それなのに、損益計算書に「補助金」の科目がでてくることは、相当「コロナにやられた」ことを証明できるか、貸借対照表の「貯金」がほとんどなくなり借入もマックスに達している状況かのいずれかではないだろうか。

IPO、新株発行(いずれもエクイティ・ファイナンス)、社債発行(デットファイナンス)、そして保有資産の売却を除けば、企業が資金を調達する方法は大きく2つしか無い。一つは、銀行からの借入。もう一つは、事業会社やファンドへの株式売却による経営権の譲渡だ。資本主義経済では、基本的には「救済型の貸出」「救済型の企業買収」はない。
「基本的に」といったのは、デット(借入)についていえば、現実には与信をオーバーした債権回収が危機になり、債権主がファンドに頼み荒療治を行ったあとで株式の引き受けを約束するケースがあるためだ。これは、今後ますます増えるだろう。救済型の企業買収については、上場して調子にのった社長が、乱脈経営の結果経営危機に陥った昔の友人に頼まれ、なんの事業シナジーもない、単なる救済を目的とした買収を行うケースなどがある。
上場企業は投資家のものだから、このような勝手な買収はしてはならないのだが、現実にはあちこちで起きている。日本の株式市場、上場企業においてガバナンスが正常に働いていないからだ。ちなみに、これらは「理屈上ありえる話」ではなく、「現実にあった、ある」話である。

 

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5000億円規模の価値を、どこに見出しているのか?

(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon )

さて、そごう・西武の話に戻す。各種報道によると、セブン&アイ・ホールディングスは、2005年のそごう・西武買収(当時の社名はミレニアムリテイリング)に使った金が約2000億円と同程度の金額で引受先を探しているという。

以前、私は企業買収を「現金製造機」に例えて解説した。1年間に1万円の現金を生み出す「現金製造機」があり、5年間は壊れずに使えるとしよう(その後は壊れるかもしれない)。つまり5年間で総額5万円が得られるわけだが、毎年得られる「1万円」を現在価値に割り引いた金額の総額が現金製造機の現在価値となる。このように現在の企業価値を算定するのが企業価値算定である。 

このそごう・西武は21年2月期業績で、売上高が4300億円で、当期純損失が▲172億円。営業利益が▲67億円で減価償却費が74億円だから簡易計算のEBITDAは+7億円となり、前年度のEBITDAが+87億円であることを考えれば、年平均衰退率を乗じれば事業価値はほぼゼロだ。また、そごう・西武は、21年2月期時点で3000億円規模の流動負債、固定負債合計を抱えている。したがって、買い手は、事業価値0+売却2,000億円+そごう・西武の負債3000=5000億円規模の価値を百貨店事業以外の資産の中に見いださねば成立しないことになる。いま、成長戦略が見えず、次々と店舗閉鎖に追い込まれている百貨店のどこに5000億円の価値を見いだすのだろうか。

一時入札には外資ファンドが残り、5月に売却先を決定

昨年、米国大手投資銀行が、日本の不動産を狙った「日本ファンド」を次々と作ったことは記憶に新しい。このディールは20222月に一時入札が終わり、東洋経済オンラインの報道によれば残ったのは、ゴールドマン・サックスなど投資銀行や、投資ファンドなど4社。二次入札に進み、5月の株主総会で売却先が決まるようだ。

再建屋の私は、いつもこの段階で声がかかる。「この会社はどうすれば再建できるのか?」「この会社の強みはなにか?」「いくら儲かるのか?」などだ。

しかし、こうした依頼が、私を含めた再建屋にこないこともある。それは、そもそも事業再生を目的とせず、荒療治で儲ける手法をとる場合だ。

日本のアパレルは、欧米の竹を割ったような綺麗で単純なロジックを理解していない。彼らは「赤字事業はやめろ」「この事業が儲かっているからこれに集中しろ」「金は、赤字会社を売った金で補填しろ」という、中学生でもわかる論理で攻めてくる。これに対して日本の旧態依然とした会社ができる一般的な反応とすれば、「ドラスティックすぎる。我が社の文化に合わない」だ。しかし、合うも合わないも金が尽きて破綻するのだから仕方ない。金が山のようにあって、非上場オーナー企業なら、煮るなり焼くなり好きにすればよいが、そうでないから投資銀行やファンドに売却されるのだ。

私は数多くの投資銀行やファンドの人達と関わってきたが、彼らとて他人から預かったお金を運用して運用益を出さねばならない。人様の金をいい加減な投資に使うわけにはいかない。だから、彼らは「確実に儲かるものにしか投資はしない」。レナウンが破綻したとき、引受先が一社も表れなかったのが良い例だ。無価値なものには手を出さないのが投資銀行、投資ファンドである。
それでは、そごう・西武が持つ5000億円の価値とは何か。それは、日本の一等地にある不動産価値だろうと私は思っている。今、日本の特に都心部は不動産バブルになっており、高価なタワマンの最上階を外国人がどんどん買っている。日本の一等地にある不動産は、百貨店事業をやめれば、もっと儲かる事業が山のようにあると考えているようだ。つまり、百貨店店事業から撤退し、都内一等地にある不動産をさらに儲かる業態にするということである。しかし、投資銀行、ファンドの売却価格は取得価格の5倍から10倍と言われており、5000億円で買えば2兆〜5兆円で売却せねば真尺に合わない。ましてや、百貨店事業から他業態へ変化するための投資原資や(ないことを祈るが、リストラ費用など)も必要となり、この場合、様々な方法で買い取り価格を圧縮する方法を、ステークホルダーと握っている可能性があるように思う。少なくとも、このような場面を数多くみてきた私には、綺麗なディールにはならないだろうと思うし、ソフトバンクグループがアームのエヌビディアへの売却を諦め、自社グループでのIPOを目指すようにディールブレーク(M&Aが流れる)する可能性もある。

それが、金融の論理というものである。

2022年、借金と在庫まみれになった日本のアパレル産業は、「資本主義の論理」を目の当たりにすることになるだろう。私は、こうした恐怖を煽っているのではない。むしろ、可能な限り私にできることをやり、事業価値を上げる(敵対的買収を避けるためには事業価値を上げることだ)お手伝いをしたいと思っている。今、アパレル企業の経営層、管理職に必要なことは、世界の潮流を正しく掴み、M&A、オフショア、DX3つを、自らがゼロから学ぶことだ。

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応募/お問い合わせ先: Info@ifi.or.jp

TEL:03-5610-5701  担当:碓井

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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