「そごう・西武」のゆくえとファンド による企業買収のロジックとは

河合 拓
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ファンドが打ち出す「企業買収のロジック」とは

kuppa_rock/istock
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さて、これからどんどん増える企業買収について、アパレル企業は正しい知識を持つべきだろう。人口減少と所得減少のダブル減少により日本市場に未来はないにもかかわらず、日本のアパレルのほとんどは日本市場に集中し海外に出ようとせず業績を悪化させているからだ。

この5年、日本の衣料品の生産量の半分が売れ残っていることは、環境省のサステイナブル・ファッションのページにハッキリと書かれている。この計算は、日本の大手シンクタンクが算出したものであるが、仮に企画原価率が30%で最終消化率が50%となれば、日本のアパレル企業は3年で、売上高と同金額の不良資産が積み上がり、6年で売上高の倍の不良資産が積み上がっていることになる。こんな状態になれば、当然企業の運転資本は毀損され企業は破綻する。

損益が黒字でも企業は倒産する

企業再生を専門にしている私が最初に分析するのが、キャッシュフローだ。中小企業であれば資金繰りである。企業は、いくら赤字が続いても金があれば倒産しない。だから、かなりの数の非上場アパレルは不良資産である在庫をバランスシートに隠し、不良在庫を時価評価しないのだ。こうすれば、損益計算書に時価評価された在庫の損失(通常は売上原価に含める)が出てこないので、一見利益がでているようにいえる。しかし、このように臭いものに蓋を閉めるやりかたは、いずれ行き詰まる。最近では、損益計算書に「補助金収入」などという勘定科目が見られるようになった。非上場企業で十分なキャッシュがあれば、むしろ赤字の方が節税効果が働く。それなのに、損益計算書に「補助金」の科目がでてくることは、相当「コロナにやられた」ことを証明できるか、貸借対照表の「貯金」がほとんどなくなり借入もマックスに達している状況かのいずれかではないだろうか。

IPO、新株発行(いずれもエクイティ・ファイナンス)、社債発行(デットファイナンス)、そして保有資産の売却を除けば、企業が資金を調達する方法は大きく2つしか無い。一つは、銀行からの借入。もう一つは、事業会社やファンドへの株式売却による経営権の譲渡だ。資本主義経済では、基本的には「救済型の貸出」「救済型の企業買収」はない。
「基本的に」といったのは、デット(借入)についていえば、現実には与信をオーバーした債権回収が危機になり、債権主がファンドに頼み荒療治を行ったあとで株式の引き受けを約束するケースがあるためだ。これは、今後ますます増えるだろう。救済型の企業買収については、上場して調子にのった社長が、乱脈経営の結果経営危機に陥った昔の友人に頼まれ、なんの事業シナジーもない、単なる救済を目的とした買収を行うケースなどがある。
上場企業は投資家のものだから、このような勝手な買収はしてはならないのだが、現実にはあちこちで起きている。日本の株式市場、上場企業においてガバナンスが正常に働いていないからだ。ちなみに、これらは「理屈上ありえる話」ではなく、「現実にあった、ある」話である。

 

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