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Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由

あちこちで、アパレルビジネスのご意見番たちが、中国のモンスター企業Shein(シーイン)の分析を書いているが、産業界は「D2C x ライブコマース x越境EC」を起死回生の秘策の如く、Instagram(インスタ)、LINE、Facebook、YouTube上が企業広告だらけとなってきた。こうした広告は全くCPAに寄与しないだけでなく、迷惑メールと化している。見られているのはクーポンメールとディスカウントメールだけだ。日本人は、どうも「目的」と「手段」をあべこべに考える癖が直っていない。ライブコマースは確かに、過去、「ファッション雑誌」が持っていたトレンドを牽引する役割を果たしており、アパレル市場の主役である女子たちの乙女心に刺さるカギとなっているのは事実である。しかし、ライブコマースであればよいというものではない。今回はこのライブコマースを軸に、アパレル業界が「最後のブルーオーシャン」と見ているZ世代のマーケティングについて、その有効性と本質論を展開する。

Tirachard/istock

残念なOMO店舗の実態

某情報誌に「テクノロジーの粋を尽くし、D2Cを集めたOMOストアが完成した」と報道され、有識者も絶賛した店を見に行った。行って驚いたのは、まず、客がいない。未来的感覚の店舗であることは間違いないのだが、商品に魅力がない。ニット、アクセサリーなどは、お世辞にも買いたいというものがなかった。27歳と23歳の娘を連れて行ったが、二人は「客がこないのは当たり前だ」と言っていた。

さらに、無人店舗を実現した「最新のテクノロジー」というのが驚きだった。
各商品にバーコードが付き、値段からその商品のストーリーに至るまでスマホバーコードを読み取って見ることができるのだが、客はそんな面倒なことを望んでいるはずがない。例えば、普通に考えてみれば、ちょっと「かわいいな」と思った商品があれば、消費者はちらりと値段を見るのだが、その度、いちいちスマホを出しバーコードを読み込まなければならないわけだ。もしスマホを持っていない(持ってこなかった)人が来たらどうするのだろうか。また、苦労して見た画面の下には決済ボタンが付いている。うっかり触ってしまうとどうなるのか、と怖いとも感じた。 

余計なお世話だが、もしお客が山のように集まったら、この面倒なプロセスはどうなるのかと心配は止まらない。さらに、D2Cというのだから流通コストを抜いた素晴らしいコスパを期待していたのだが、13万円、5万円など百貨店並みの高価格で、なにがD2Cなのかさっぱりわからない。企業側の都合としてのビジネスモデルがD2Cなのかもしれないが、消費者にとってはハテナマークが山のように続くだけだろう。極めつけは、その商品は工場直販のD2Cであるがゆえ、ブランド名を聞いたこともない。例えば、ファクトリーブランドといえば、メンズで言えば、Ring JacketARCODIA、桃太郎ジーンズなどいろいろなブランドがあるが、彼らとて、それなりのブランド戦略を執り自社ブランドを浸透させている。聞いたこともないブランドを持って、「これはD2Cです」といってもなんのことか誰も理解できないだろう。率直に言わせてもらえば「残念な店」だと感じた。

 

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ライブコマースは手段であって目的でない

「全てはお客様が起点となる」

これは、私が企業・事業を再建する時、神棚に飾っておく格言だ。お客様が「買いたい」と思わなければ消費は発生しない。「ライブコーマースがキーワード」と、宣っているご意見番がおり、告白すれば私もその一人だったが、「ライブコマース」をやっても売上はあがらない。過去、まだSNSを使ったPRが黎明期だったときは多少の効果はあっただろうが、今は、もう猫も杓子もライブコマースだらけだ。もはや、目新しい手段でないライブコマースは「質の勝負」になっている。

世の中が見えないと感じるなら、ターゲットのお客様を呼び徹底的に対面インタビューをやればよい。私は、フォーカスグループインタビューは一日に3コマで一週間という地獄のスケジュールにすべて参加する。私の20年の経験から言って、こうしたアパレルのブランドに対するインタビューに最後まででた人は200−300名以上いたが、2名しかいなかった。「あとは、レポートにまとめておいて」といって、このステップを「時間がかかって面倒だ」とスキップするか、数値偏重主義から、あやまった調査設計で定量調査をやり、数字を自分都合に解釈するか、なんの関係もないセグメント分析を100ページぐらいやって戦略的示唆もだせずパラパラ漫画とかわらぬ調査をやるかのいずれかだ。こういうやり方をするから先が見えないのである。これらは、すべて実務経験が無い人間が初期仮説をあやまって置いているからだ。

すべては観察による分析からはじまる

例えば「Z世代」を観察すれば非常に示唆深い結果が分かる。私の分析では、彼女たち、彼らにとって「インフルエンサー・マーケティング」は高い確率で失敗する。

Z世代」の女子たちのファッション情報の入手元はインスタが圧倒的だ。女性は右脳で「感じて」追いかけ、男性は左脳で「納得して」追いかける。だから、お寿司屋でうんちくを語っているのは例外なく男性だ。女性は「おいしそう!」でおわりである。つまり、写真や短い動画は女性向きなのである。また、女性・男性関係なく「わざとらしい広告」は簡単に見抜き、彼女たちは「服」を追いかけず、右脳に残像が残り、こんなライフスタイルになりたいと共振する「脳内共鳴」が蓄積する人をフォローするのだ。 

これが、一昔前なら、有名モデルを使えばよかったが、今は、日本市場に限って言えば、こだわりのある一般人の方が脳内共鳴されやすい。その総体が多い人が、いわゆる「YouTuber」や「グラマー」と呼ばれる人で、こういう人を企業が「インフルエンサー」と称して商品化し、「逆もまた真なり」とばかりに、自社商品販売に利用する。だが、そもそも脳内共鳴は、結果的にインフルエンサーとなった人の「こだわり」に対して蓄積していることを忘れてはいけない。

消費者である女子達は、楽しいと思って見ていたYouTuber」や「グラマー」が、買うはずないと思われる商品やサービスを褒めている姿をみれば消費者の脳内共鳴はすぐ止まる。結果、熱烈なファンは徐々に購買のモチベーションを失う。
なお、コンバージョン(消費者がお金を払うファネル分析の最終段階)に至るCPA (顧客獲得単価、お客様のクレジットカードやメールアドレスを自社のサーバに登録するコスト)は、今や20,000/人を超えている。
そもそも、マーケティング会社では、「うちのコンバージョンは3000/人ですよ」というので、調べてみると、「2ステップマーケティング」(1ステップで、オウンドメディアに登録させて、2ステップ目で商品を買う)の1ステップ目の話をしていることが多い。しかし、こうした構造だと1ステップ目の「コンバージョン」でマネタイズできないわけだから、CPA < LTVが成立しないではないか。つまり、「2ステップマーケティング」を採用し、ROAS(投資広告費回収率)を計測するなら、コンバージョンに至るまでをCPAとしないとLTVとの見合いが釣り合わないことになる。今のアパレル業界は、マーケティング会社もアパレル企業もこんな簡単な理屈が理解できていないほど論理力が低下しているわけだ。

加えて、デフレによって利益率は悪化。低い利益率と、顧客が競合に簡単にスイッチしてしまう(離脱)ため、LTV(顧客生涯価値)回収は現実的に不可能となる。これも、自分でファイナンスモデルをつくったことがない人間がよくやるミスだ。

特に、巨大企業はこうした一連のつながりを理解しておらず、営業には売上を、マーケティング部には顧客開拓をKPI(重要業績指標)として命じるから、営業はどんどん値下げし、マーケティング部は闇雲にコストをかけ顧客開拓をし企業赤字は増えていく。代理店に「インフルエンサー・マーケティング」を進められ、効果がでなかった経験がある方はこうしたメカニズムを理解すべきだ。論理的に考えればすぐにわかるだろう。

デジタル戦略立案の正しいプロセス

Giuseppe Lombardo/istock

密室で何度議論しても正しい戦略は生まれない。ましてや、万人受けする戦略やデジタルソリューションなどもない。なぜなら、企業ごとに顧客の顕在化された解決すべき課題や潜在的解決すべき課題はすべて違うからだ。時に膨大な数の顧客の「生の声」を聞き、その声を自分なりに解釈・分析し、「このような世界があれば、この人たちはもっと喜んでくれるだろう」というビジョンを創造する。それを最新のテクノロジーを使ってどう実現するかを考える。それが、デジタル戦略立案の正しいプロセスである

判を押したように「DXには目的が必要だ」というベンダーが後を耐えないが、私から言わせれば、「DX成功にはビジョンが必要だ」が正しいビジョンがあるから目的が明確になのだ。とってつけたような「リードタイムの短縮化」や「生産性の向上」などは、イノベーションとはいえないレベルの改善である。こんなものは目的でもなんでもない。人を震えさせるほど感動させるビジョンを見せてこそ経営ではないか。

デジタルベンダーを自社に呼び、「最新OMOストア」「越境EC」など、お決まりのプレゼンを聞いてスタートするプロジェクトの多くは「こんなはずではなかった」となるのが関の山だ。これは、全てをデジタルに期待するクライアントと、売上を上げたい思いから誇大表現で売り込むデジタル企業の掛け合いから生まれる悲劇である。

Z世代を追いかけても破滅が待っている

特に、次の10年を担う「Z世代」を取り込もうと考えている人は、まず、「Z世代」の人口構成比のデモグラフィックを思い出せば良い。今、商品の半分以上を構成しているバブル世代はあと10年で老後を楽しむ世代となり、スーツやオフィス着の売上は壊滅的となる。さらに、次のZ世代の人口構成比と消費パワーは極端に少なく、また、彼らは古着やサブスクを「生活ROI」で買っている。ここに企業が集中すれば、今のオーバーサプライ(供給過剰)がさらに増大し、生産の半分が毎年残っているどころでなく、生産の70%は売れない世界が待っている。もちろん、そこにたどり着くまでに産業界は崩壊しているだろう。誰が考えても論理的帰結である。

「Z世代」は、無駄な買い物はしないし「古着」を好んで買う。私が上記で説明した単純な構造となぜ向き合おうとせずに、昔話や枝葉の議論に終始するのだろうか。
しかし、このZ世代はアジアのファッションリーダーとなる可能性はある。特にTOKYO渋谷、代官山、キャットストリートなどZ世代のファッション聖地で一日過ごしてみれば良い。こんな街は世界のどこを探してもない。「ユニクロTokyo」や「TOKYO BASE」に、TOKYOをファッション・ショールームシティとし、彼らからマネタイズすることを諦め、彼らに自由に服を楽しませ、Sheinのように現地のライブコマースPR会社と組み、TOKYO ファッションと日本ブランドの技術を成長著しい東南アジアや中国富裕層に売る。
今、韓国がエンタメに国家戦略として取り組んでいる手法から学ぶべきだろう。時間は限られている。いずれ、アジアの国にショールームシティのポジションまで奪われれば、日本から製造だけでなくブランドも消えて無くなるだろう。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)