Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由
デジタル戦略立案の正しいプロセス
密室で何度議論しても正しい戦略は生まれない。ましてや、万人受けする戦略やデジタルソリューションなどもない。なぜなら、企業ごとに顧客の顕在化された解決すべき課題や潜在的解決すべき課題はすべて違うからだ。時に膨大な数の顧客の「生の声」を聞き、その声を自分なりに解釈・分析し、「このような世界があれば、この人たちはもっと喜んでくれるだろう」というビジョンを創造する。それを最新のテクノロジーを使ってどう実現するかを考える。それが、デジタル戦略立案の正しいプロセスである。
判を押したように「DXには目的が必要だ」というベンダーが後を耐えないが、私から言わせれば、「DX成功にはビジョンが必要だ」が正しい。ビジョンがあるから目的が明確になのだ。とってつけたような「リードタイムの短縮化」や「生産性の向上」などは、イノベーションとはいえないレベルの改善である。こんなものは目的でもなんでもない。人を震えさせるほど感動させるビジョンを見せてこそ経営ではないか。
デジタルベンダーを自社に呼び、「最新OMOストア」「越境EC」など、お決まりのプレゼンを聞いてスタートするプロジェクトの多くは「こんなはずではなかった」となるのが関の山だ。これは、全てをデジタルに期待するクライアントと、売上を上げたい思いから誇大表現で売り込むデジタル企業の掛け合いから生まれる悲劇である。
Z世代を追いかけても破滅が待っている
特に、次の10年を担う「Z世代」を取り込もうと考えている人は、まず、「Z世代」の人口構成比のデモグラフィックを思い出せば良い。今、商品の半分以上を構成しているバブル世代はあと10年で老後を楽しむ世代となり、スーツやオフィス着の売上は壊滅的となる。さらに、次のZ世代の人口構成比と消費パワーは極端に少なく、また、彼らは古着やサブスクを「生活ROI」で買っている。ここに企業が集中すれば、今のオーバーサプライ(供給過剰)がさらに増大し、生産の半分が毎年残っているどころでなく、生産の70%は売れない世界が待っている。もちろん、そこにたどり着くまでに産業界は崩壊しているだろう。誰が考えても論理的帰結である。
「Z世代」は、無駄な買い物はしないし「古着」を好んで買う。私が上記で説明した単純な構造となぜ向き合おうとせずに、昔話や枝葉の議論に終始するのだろうか。
しかし、このZ世代はアジアのファッションリーダーとなる可能性はある。特にTOKYO渋谷、代官山、キャットストリートなどZ世代のファッション聖地で一日過ごしてみれば良い。こんな街は世界のどこを探してもない。「ユニクロTokyo」や「TOKYO BASE」に、TOKYOをファッション・ショールームシティとし、彼らからマネタイズすることを諦め、彼らに自由に服を楽しませ、Sheinのように現地のライブコマースPR会社と組み、TOKYO ファッションと日本ブランドの技術を成長著しい東南アジアや中国富裕層に売る。
今、韓国がエンタメに国家戦略として取り組んでいる手法から学ぶべきだろう。時間は限られている。いずれ、アジアの国にショールームシティのポジションまで奪われれば、日本から製造だけでなくブランドも消えて無くなるだろう。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-12-26「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2021-11-16「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
- 2024-09-10アパレルのいまを全解説!GU、しまむらとシーインを比較してはいけない理由
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-10-15利益5000億円越え!世界で圧巻の強さのユニクロが中国で苦戦する理由とは
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-10-08コンサルの使い方に社長の役割…企業改革でよくある失敗と成功の流儀とは
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-05-07ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
関連キーワードの記事を探す
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは