『贅沢の法則 消費ユートピアの透視図』 田村正紀 著 (白桃書房/2315円〈本体価格〉)

2017/12/01 20:07
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贅沢の法則

 贅沢とは何だろうか──。

 本書はこのような問いかけから始まる。この問いに対して、神戸大学名誉教授の著者は、経済学のみならず、歴史や社会階層に焦点を当てた社会学の視点も取り入れ、学術分野横断的に迫る。

 たとえば、贅沢には「嗜好─必需」(選好度の軸)、「華美─質素」(浪費度の軸)、「上品─下品」(洗練度の軸)、「裕福─貧乏」(生活水準の軸)の4つの対比軸があるという。

 選好度の軸は、これまで経済学で採用されてきた贅沢の定義である。衣食住など人間生活に必要不可欠なもの以外をすべて贅沢として扱う。また、洗練度の軸は、社会階層の議論が背景にあり、上流社会階層では生活への審美的要求という「上品さ」が贅沢として求められる、と本書は説明する。

 このように贅沢という言葉を分析することで、将来の消費社会がどのように変化するだろうか、という予測もしている。その中で、著者は「贅沢ピラミッドがますます巨大化すること」を指摘している。

 贅沢ピラミッドとは、階層をエリートやセレブなどの「上層」、新富裕層を中核とする「中層」、大衆をさす「下層」に区分した構造である。この贅沢ピラミッドが「巨大化する」というのは、グローバル化や新興国の台頭により、中層から下層にかけて裾野が広がっていくことをいう。世界を見ると、新興国の成長にともない、若年層を中心に所得が拡大したことで、より多くの人が贅沢を享受できるようになったのである。一方、上層は中層と差別化を図るため、贅沢に拍車をかけることになる。これが「巨大化」の構図である。

 食品スーパーで見られるような「プレミアム商品」も、百貨店で販売されているほんの一握りの富裕層向けの超高級品も贅沢である。複数の側面があるこの言葉を分析した本書は、メーカーのマーケティングのみならず、小売業のマーチャンダイジングの参考となるだろう。

(『ダイヤモンド・チェーンストア』2017年12月1日号掲載)

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