個人データを最大限に活用したマーケティング戦略で新たな顧客体験を創出

2022/07/01 18:09
    Pocket

    小売業の攻めのビジネスにも守りにも個人情報保護法の理解と対応が急務

    istock/Alina Naumova

     デジタル化が加速する中で顧客の消費行動も変化し、小売業においてもマーケティング戦略の再構築が求められている。オンオフ関係無くリアル店舗でもECでも収集した個人データを活用し、パーソナライズした新たな顧客体験を創出する手法への転換が、今後より求められる。顧客の個人データへの関心は高まっているが、提供することで小売業の店舗やサイト、アプリから、買物や体験に本当に有益な情報が提供されるなら提供したいという声も多い。もちろん個人情報の保護は厳格に行わなければならない。実際、欧州のGDPR、米カリフォルニア州のCCPAに見られるように、世界で個人情報保護強化が潮流となっている。日本でも今年4月に改正個人情報保護法が施行され、新たにCookie関連で「個人関連情報」という定義が新設され、規制に盛り込まれた。そうした背景の中で小売業は、個人情報とどう向き合い活用すべきか。

     企業が保有するあらゆる個人データからセキュアな統合IDを生成するソリューションを提供するLiveRamp Japanの今井則幸氏、個人情報保護法に対応したCMP(同意管理プラットフォーム)を提供するPriv Techの中道大輔氏に話を聞いた。

    ※GDPR(General Data Protection Regulation):EU一般データ保護規則。EU域内における新たな個人情報保護規則として2018年5月に施行。
    ※CCPA(California Consumer Privacy Act):米国カリフォルニア州で2020年1月に施行された消費者プライバシー法

    改正個人情報保護法施行で表面化した日本のプライバシー保護体制の遅れ

    ――LiveRampが提供するプラットフォームはどのようなサービスを提供していますか。

    今井 LiveRampは2011年に米国で創業しました。個人情報に基づいて独自のID「RampID」に変換するソリューションを提供し、そのRampIDを軸にデータを連携させるプラットフォーム「LiveRamp Safe Haven(以下、LSH)」、またデジタルマーケティングの中で活用できるようにエコシステムを構築する認証トラフィックソリューション「ATS(Authenticated Traffic Solution)」を展開しています。小売業の中にはリアル店舗やEC、販促部門などでそれぞれ顧客データを保有していますが、それらは断片化して管理されており、統合されていないため顧客マーケティングのためのデータ分析には活用しにくいというケースが多いです。我々は各部門に蓄積された個人データを固有のIDに変換するサービスを提供し、このIDを用いてセキュアで統合したデータ構築をサポートしています。小売業ではフランスのカルフールが顧客で、各部門が所持する個人データを統合することで個人のインサイトの理解を深め、顧客データを活用したマーケティングの効果を上げています。

    「RampID」ソリューション

    LiveRamp Japan株式会社 ヘッドオブパートナーシップス 今井 則幸氏
    LiveRamp Japan株式会社 ヘッドオブパートナーシップス 今井 則幸氏

    【LiveRamp Japan株式会社 今井 則幸 氏 プロフィール】
    2010年に米Yahoo!社が提供していたRight Mediaに入社し、日本市場でのAd Exchangeビジネスの定着と拡大に尽力。その後MediaMath社をはじめグローバルの広告プラットフォームで日本市場のビジネス展開、デジタル戦略とソリューションの専門知識を培う。2019年3月に現在のデータを安全かつ効果的に活用するためのデータ接続プラットフォームのLiveRamp JapanにHead of Partnershipとして入社。IDソリューションをパブリッシャー、テクノロジープラットフォームといったパートナーへの提供を担当

    ――プライバシーテックを打ち出して創業したPriv Techは顧客に何を提供されているのでしょうか。

    中道 これまでソフトバンクやヤフーなどで広告プラットフォームや DMPの立ち上げを経験してきました。そこで経験したのはプライバシー保護の未熟さです。はっきり言って日本はプライバシー保護の後進国と言ってもよいと危機感を持っています。改正個人情報保護法が施行され罰則が強化されました。しかしその内容を理解できている企業は少数でしょう。以前からそうした思いがあり、当初は現在、東証プライム市場に上場するベクトル傘下でプライバシーテック事業をスタートし、その後MBOでPriv Techとして現在の体制となりました。提供しているのはCMPの「Trust 360」であり、プライバシー規制対応コンサルティングも展開しています。

    Trust360について

    Priv Tech株式会社 代表取締役 中道 大輔氏
    Priv Tech株式会社 代表取締役 中道 大輔氏

    【Priv Tech株式会社 中道 大輔 氏 プロフィール】
    ソフトバンクや、ヤフーを経て、現職。キャリアを通じて、データビジネス関連事業のビジネス・ディベロップメントに従事。現在は、Priv Techにて、プライバシー・ファーストなデジタル社会を目指し、事業を展開

    仏カルフールは各部門の個人データを一つのID基盤に統合して活用

    ――小売業ではデジタル活用で多くのタッチポイントを作り、個人データを活用した新たな顧客体験創出を加速している。その一方で個人情報漏洩などを恐れてしまい、“攻め”ではなく“守り”のデータ活用にとどまっている感があるが、実際はどうでしょうか。

    今井 小売業はリアル店舗ならポイントカードや会員カード、ECに登録した顧客情報など多くの個人データを保有しています。様々な情報を集めているのに、部門ごとでバラバラに保有しているため戦略的なデータ分析ができていない。管理する部門が異なるためオフラインのデータをオンラインでは使えないといったこともよく聞きます。たとえば、カルフールのケースでは18部門に分かれていたデータを一つのID基盤に統合することで“攻め”のデータ活用を可能にしました。日本では改正個人情報保護法が施行されたばかりで、今は準備段階かもしれないが、まずは散在して保有しているデータの統合から着手することが大切であると考えています。

    中道 日本の場合、小売業だけでなく大手企業も中小企業も個人情報保護委員会が定めるガイドラインへの対応が遅れているように感じます。従来は違反した場合の罰金が30万円以下と少なかったが、今年4月から企業の場合で1億円以下に厳罰化されました。 Cookie関連で「個人関連情報」という定義が新設され規制に盛り込まれましたが、それに対する理解やガイドラインに対する理解もまだまだ進んでいません。また、未だに法令に抵触する提案が多くあるなど広告代理店側の認識や理解も深まっていないのも現状です。データ活用に乗り出している代理店もありますが、法律や規制への理解が壁になっていると感じます。

    今井 広告代理店は広告のプロであって、データのプロではないケースが多いですね。カルフールの場合、インハウスエージェンシーを組織しデータを使う仕組みを整備しています。

    両社のソリューションを生かして“攻め”のマーケティング戦略を

    ――今回、LiveRampとPriv Techが提携した背景とそれによる顧客メリットはなんでしょうか。

    今井 各部門で蓄積したメールアドレスをLSHのプラットフォームにRampIDという固有のIDに変換します。このRampIDは、属性情報が揃っていない複数のIDがあってもデータ統合でき、各種の属性に応じた分析を可能にします。そうしたデータは自社だけでなく、小売業ならSafe Havenを介してメーカーの持つデータと接続し共同して販促を行えます。より効果的なセグメント化で、顧客にとって有益な情報を提供できるようになり、小売、メーカー、顧客それぞれがWin-Win-Winの関係を構築することができます。

    中道 メールアドレスをLSHにアップしてIDを統合するためには、顧客の同意が必要になります。その同意を管理するのがCMP。自分のIDを使ってよりよいサービスや情報が提供されるなら、と期待する顧客は多いです。そのためにはまずプライバシーポリシーを用意し、顧客の同意を得ることが不可欠となります。

    今井 実は個人情報が守られるならばデータを活用してよいと考える個人は多いでしょう。しかし細かい文字で書かれた会員規約を最初から最後まで丁寧に読む人は、まずいない。「利用規約に同意しますか?」というのが最初のコミュニケーションポイントを、サービスを提供する側も顧客も大切にしてほしいですね。今は、長々とした利用規約を読まずに「同意します」ボタンをクリックするだけです。

    中道 だからこそ我々が提供するCMPやプライバシーポリシーをどう確立するかといったコンサルが役立つと考えています。日本の改正個人情報保護法はGDPRやCCPAと異なる部分が多い。そのため外資系ベンダーのソリューションは日本法独自の部分への対応が遅れ、そのままでは使いにくいことも多くあります。我々のソリューションはそこが強み。セキュリティベンダーが提供するのは“守り”だけ。Priv TechとLiveRampの連携により、個人情報を守るべきところはしっかり守りながら“攻め”のデジタルマーケティングが可能になるはずです。

    今井 デジタルテクノロジーを取り入れることが増え、法律や規制に関する相談が非常に増えています。コンプライアンスを順守し顧客とコミュニケーションしていかないと、結果的に顧客から見放されてしまうリスクは大きくなります。改正個人情報保護法が4月に施行された今が、まさに個人データをどのように活用して“攻め”のマーケティングに生かしていくか、その体制づくりを含めて転換期にあると考えています。

    LiveRamp Japan株式会社

    Priv Tech株式会社

    © 2024 by Diamond Retail Media

    興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
    DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

    ジャンル
    業態