ポスト・コロナの打ち筋が見えてくる!20年9-11月期決算の大手小売10社のEC戦略を分析
ECに関する情報開示は二極化、スタンスの違いを反映
各論に入る前に全体像をお話しします。
今回の分析対象として2021年1月末の株式時価総額が大きい小売企業上位10社を見てみました。企業名を列挙すると、ファーストリテイリング、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)、イオン、ニトリホールディングス(ニトリHD)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(註・直近決算は7-9月期)、ウエルシアホールディングス、ワークマン、良品計画、ツルハホールディングス、コスモス薬品となります。
このうちECに関する財務計数的開示が多い企業は、ファーストリテイリング、セブン&アイ、ニトリHDの3社にとどまりました。残りの7社は財務計数の開示はわずかです。
10社中7社という結果は「案外多い」というのが率直な印象です。しかし、7社のECの対応が遅れていると考えるよりも、事業戦略の重心が依然として実店舗にあるととらえるべきでしょう。
総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア、ドラッグストアは実店舗を起点にライフラインを支えており、ECは依然補完的チャネルという位置付けなのでしょう。特に、昨春マスクなどの特需が発生したときEC事業者よりも実店舗を運営する小売企業のほうが数量を確保したことで、消費者に実際に商品を手に取ることができ品揃え・数量も豊富な実店舗の実力を訴求できたと思います。
とはいうものの、各社が決してEC対応を軽視しているとは思いません。例えば、イオンはOcadoとの提携によって次世代ネットスーパー構想を掲げていますので、早晩具体的な戦略が見えてくることが期待されます。また、良品計画はMUJI passportをテコにした個店経営の強化をテーマにしていますが、充実した開示は半年ごとで今回は単にそのタイミングではなかったと思います。次回の決算発表を待つことにしましょう。
ちなみにこの7社の業績は足元まで総じて堅調です。コングロマリットであるイオンにおいても、スーパーマーケット事業とヘルス&ウエルネス事業(ウエルシアを含みます)は3-5月期以降の3四半期増収増益基調を続けています。GMS事業の方は減収ではありますが増益基調に転換しつつあります。
このように堅調な業績が続くのは、消費者が実店舗を支持しているからでしょう。ポスト・コロナ禍に向けて確かな足掛かりになると筆者は考えます。
椎名則夫の株式市場縦横無尽 の新着記事
-
2024/09/24
クシュタール買収提案でセブン&アイがいますぐすべきことと3つのシナリオとは -
2024/08/19
円安修正で国内成長力に再注目!良品計画に広がるチャンスと課題とは -
2024/07/08
アインHD、フランフラン買収で変わる?株主総会の争点とは -
2024/06/07
連続増収増益途切れ、株価下落のニトリHDの意外な実態と今後 -
2024/05/09
小売業界新たなフェーズへ!平和堂の株価上昇が意味することとは -
2024/04/08
新中期計画は株主の期待に応えているか?好決算発表後、しまむら株価が下落した理由
この連載の一覧はこちら [60記事]
セブン&アイ,ファーストリテイリング(ユニクロ),ニトリHDの記事ランキング
- 2024-11-01セブン&アイ、イオンの24年度上期決算と今後の戦略全まとめ
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-05-02セブン&アイが「生成AIファースト」宣言!意欲的な活用戦略と最新事例を語る!
- 2024-09-25独自調査で判明!食品スーパー、市場規模&市場占有率2024
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-08-26イオン、ヨーカ堂も本気、模倣困難な水準へ進化する総菜のSPA化!
- 2024-09-3048兆円市場の各社のシェアがわかる!食品小売、市場規模&占有率2024!
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-04-10国内2強、イオンとセブン&アイの流通相関図2024 大型再編、M&A、事業撤退相次ぐ
関連記事ランキング
- 2024-11-01セブン&アイ、イオンの24年度上期決算と今後の戦略全まとめ
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-05-02セブン&アイが「生成AIファースト」宣言!意欲的な活用戦略と最新事例を語る!
- 2024-09-25独自調査で判明!食品スーパー、市場規模&市場占有率2024
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-08-26イオン、ヨーカ堂も本気、模倣困難な水準へ進化する総菜のSPA化!
- 2024-09-3048兆円市場の各社のシェアがわかる!食品小売、市場規模&占有率2024!
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-04-10国内2強、イオンとセブン&アイの流通相関図2024 大型再編、M&A、事業撤退相次ぐ
関連キーワードの記事を探す
ダイオーズ、自社運営のフードデリバリーで「冷凍弁当」の取り扱いを開始 !そのねらいは!?
小売業の衛生対策 来店客、従業員の安全安心を第一に各種衛生対策に力を入れる
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
円安修正で国内成長力に再注目!良品計画に広がるチャンスと課題とは
酒井真弓のDXトレンド最前線、ハンズやニトリが活用、店舗とECの壁を壊すスタッフ起点のDX