あのユニクロも苦しんだのに! ワークマンに“ブームの反動減が来ない”明確な理由

柳平 孝 (いちよし経済研究所主任研究員)
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ワークマンのPBが急拡大した要因とは

 では、同社のPB商品が急拡大するに至ったのはなぜなのか。同社の顧客として(従来からのワーカーに加えて)一般消費者が増加している背景として、同社のPB商品の魅力に加えて、ワーキングウエアとカジュアルのボーダレス化が進みつつあるとの見方がある。また、同社の調査によると、アウトドア・スポーツウエア・カジュアル衣料の市場において、価格軸(高価格・低価格)と機能性・デザイン性の軸でポジショニングマップ上に各種ブランド・ショップをプロットした場合、同社は「高機能」「低価格」のゾーンに位置づけられる(図表2)。同社ではこのゾーンは空白マーケットとなっていると考えており、その市場規模は約4,000億円程度と推計している。

図表2「ワークマンプラス」のターゲットゾーン
図表2「ワークマンプラス」のターゲットゾーン   出所:ワークマンホームページ

 ここで筆者は、同社が標榜する「働くプロの過酷な使用環境に耐える品質・高機能、圧倒的な低価格」のPB商品において「圧倒的な低価格」にあらためて注目したい。(適正な粗利益を確保した上での)低価格を実現できる理由は、同社の店舗数(848店舗)を背景として、販売数量(生産数量)が圧倒的に大きいためだ。一般にアパレルメーカーでは1品目当り12万着の生産規模と言われる。一方、同社のPB商品では1品目当り10万着以上の生産規模となる商品が少なくない。この規模格差が大幅な製造原価の差となる。加えて、生産・販売ロットの大きさ故に、機能性素材の確保や新素材に際しても、優良メーカーからの調達が容易となる。ちなみに、同社の店舗数は「ユニクロ」の国内店舗数(2019年8月期末817店舗、ピークは2013年8月期末853店舗)に匹敵する。

 重要な点は「多店舗化による販売数量の拡大⇒発注ロットの拡大⇒川上業者との協力関係を構築」してきたゆえに圧倒的な商品力を有するに至ったということであろう。すなわち、着実な店舗展開を継続し、規模拡大とともに商品開発に必要な基盤・人員体制を整備し、しかるのちにPB開発に打って出たということである。決して一発まぐれのような単純・短絡的な話ではない。

 大手ホームセンター(HC)のコメリの創業者である故捧賢一氏は生前、チェーンストア企業の成長戦略として商品開発の重要性を語られていた。曰く「“チェーンオペレーションによる多店舗化”と“マスマーチャンダイジングによる商品開発”の二つが重要であり、大量出店による規模拡大は商品開発のための布石なのだ」と。約20年前のことだ。

 故人の言葉を思い起こすと、ワークマンが新たな高成長局面に入った要因として、同社が「チェーンストア企業の成長戦略」の基本に対して地道に忠実に取り組んできたことが示唆されるのではなかろうか。

 木漏れ日のまぶしいイチョウ並木を散策しながら、そんなことを思う今日この頃である。

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記事執筆者

柳平 孝 / いちよし経済研究所 主任研究員

1991年北海道大学経済学部卒、同年大和総研入社。小売業界アナリストとして、INGベアリング証券(現マッコーリーキャピタル証券)、日興シティグループ証券(現シティグループ証券)などを経て、2011年1月より現職。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員

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