CRMの大原則“オープンに集客、クローズドにおもてなし” その成功例と失敗例
ココカラファインが陥った、ボタンの掛け違いの例
ここでドラッグストア大手のココカラファインの事例を見てみよう。現在は既に善後策が講じられており、同社の考えるCRM戦略に取り組んでいるが、過去のケーススタディとして振り返ってみようと思う。ココカラファインでは、2013年4月に新ポイントカード「ココカラクラブカード」の導入開始後、旧ポイントカードから新ポイントカードへの速やかな切り替えを前提に、当該カードを活用した全社統一販促の実施を想定していた。新カードはプリペイド機能付きであり、かつ同社店舗だけでなくVISA加盟店で利用可能な利便性の高いカードであった。同社では2016年3月末の目標として稼働会員数1,100万人(2013.3月末約750万人)を目指した。
しかし、「VISAプリペイド」(国際クレジットカードVISAの提供するプリペイド機能)を搭載したため、旧ポイントカードから新ポイントカードへの切り替えは顧客にとって煩雑で手間のかかる手続き(=クレジットカードのVISAカードへの入会と同等の書類記入が必要)となった。結果として、同社の主要顧客層(主に中高年女性)ほどカード切り替えが進捗しない事態となり、2014年3月末の新ポイントカード会員は約310万人にとどまった(稼働会員約760万人の約4割)。同社としては出鼻をくじかれた形となり、想定していたCRM戦略を推進するまでに、予想以上に時間を要することとなった。
ポイントカードだけでなく、来店への撒き餌となるクーポン配布に関しても同様であった。顧客の保有するスマホへアプローチするにはSNS利用が有効だが、SNSの選択に際して、実名登録の原則に抵抗を感じる人が多いサービス(例:Facebook)を用いた場合、最初から客層が限定されてしまう可能性が高い。実際、ココカラファインは2013年に「Facebook」を活用した販促や固定客化を試みたしたものの、期待した効果が得られず、短期間で中止している。対照的に、マツモトキヨシホールディングスが2012年7月から利用開始した「LINE」は、手軽なメールアプリとして広く普及していたため、“オープンに集客”の原則に沿ったメディア選択であったと言える。
「ID-POSによる単品”単人”管理」と「オープンに集客、クローズドにおもてなし」。流通大手の経営者の方々は、パラダイムシフトを認識し、適切な戦略・戦術を理解しているのであろうか。日本の小売業界には成功事例・苦戦事例ともに先行企業の事例が豊富にある。参考になることは多いと思う。
イチョウ並木の黄金色のじゅうたんを踏みしめながら、そんなことを思う今日この頃である。