第112回 2025年、装置産業としてSCが取り掛かるべきこととは

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)
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「ショッピングセンター(SC)は、業種で言うと何業になりますか?」という質問を新入社員研修で投げかけると、「小売業」と答える人が少なくない。そして、入社後数年経っても、SC事業を題材に「小売業」と「不動産業」の違いを明確に答えられる人は少ない。なぜ、そのようなことが起こるのか。今回は、その原因とSC事業がめざす役割を明示したい。

nikitabuida/istock
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 誤認を生む「SC売上高」という指標

 「12月度のSC売上高の前年同月比伸長率は、総合で105.3%となった。気温が低下したことに加え、SC全体の販促施策やプレセールにより冬物商材が好調だった」。

 これは日本SC協会が発表した202412月の売上状況報告の冒頭文だが、まるで百貨店や総合スーパー(GMS)など小売業のような表現に違和感を覚える。さらに、記載されている「SC売上高」はSCの売上高ではなく、SCに入居しているテナントの売上高の合計である。

 そもそもSCは販売行為を行っていない。ところが、「SC売上高」とあたかもSCが販売活動を行っているかのように発表する。SCを経営する企業でも、テナント売上高を「SC売上高」として記載する会社や、会社の経営目標にSC売上高をKGI(重要目標達成指標)にする企業さえいる。 

 「テナント売上高の総合計=SC売上高」と定義してしまえば済むことだが、SCの売上高と認識するために役割責任の誤謬(ごびゅう)が発生し、SC運営の業務内容に齟齬を来たしている。

SCとテナントの役割

 SCSC内のテナントは借地借家法に基づく建物賃貸借契約を締結する。借家人であるテナントは、賃借物件における独占的排他的占有権を担保される代わりに賃貸料を支払い、SC(賃貸人)は借家人(テナント)の安定的かつ継続的な営業活動を保証する。

 安定的かつ継続的とは、賃貸物件が契約通りに保全され、利益を上げることを目的に安全に営業活動が継続できることである。要するに、SCはテナントの営業活動のサポートが求められ、一般の不動産賃貸業とは異なる商業用不動産であることを示唆する。

 では、商業用不動産であるSCの行うテナントサポートとは何か。SC運営業務に携わる人がまず思い浮かべるのは、「売上金管理」「釣銭両替」「クレジット決済」「販促」「営業指導」「店舗巡回」「研修」だと思うが、これらは販売補助業務であり、SCの本質的な役割責任ではない。SCが果たすべき役割責任はテナントの「店舗運営の保全」と「営業支援」である。

 しかし、「売上金管理」「釣銭両替」「クレジット決済」「販促」「営業指導」がSCの主たる業務と認識することが「SCは小売業」と回答してしまう原因でもある。

 では、「店舗運営の保全」と「営業支援」を実現するために何をするのか。それは、

①快適な商業空間の創造

②施設の継続的な保全

③多くの客を集めるマーケティング活動

の3つである。

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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