小売業界にも影響必至!? 「物流業界の2024年問題」とは
2018年に成立した「働き方改革関連法」のトラック業界への適用猶予期限がこの4月で残り2年となる。すでに慢性的、かつ構造的な人手不足問題に悩まされている物流業界だが、この猶予期間が終了することにより、物流サービスの供給力不足が深刻化するのは確実だ。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)
「物流の2024年問題」とは何か
「働き方改革関連法」とは、年720時間の時間外労働の罰則付き上限規制を、大企業は19年4月、中小企業に対しては20年4月から適用するというもの。だがトラック業界は、建設業界などの一部の業種と並んで、特例として24年4月からの適用となっている。
さらに、いずれは一般則とする前提ながら、時間外労働は他業種よりも緩い960時間が上限に設定されている。その理由は、運転手不足が深刻な状況下で短期間での対応は難しいと判断されたためである。5年間の猶予を与えられてはいるものの、期間内に物流各社がこの問題に対応するのは難しいとみられており、法律が適用される24年4月にトラック業界は大きな混乱が生じることが懸念されている。こうした問題を物流業界では「物流の2024年問題」と呼んでいる。
22年3月現在、この問題に対して未対応の企業が多い。船井総研ロジが2021年12月に実施したアンケート(131社が回答)によると、17%は具体的な対策を立案して実行に移しているものの、半数以上の54%が「具体的な行動に至っていない」と回答している。
その主因は、トラック運転手の人手不足が深刻かつ構造的なものであることだ。厚生労働省の職業安定業務統計によると、22年1月の有効求人倍率は、全職業(パートを含む)は1.17だったが、トラック運転手を含む自動車運転の職業は2.20と、すでに雇用確保が困難な状態と言っていい。加えて、長期的には自動運転車の導入により雇用が失われるとの見方もあり、若者による新規運転手の成り手がいないこともその要因として挙げられる。
2024年4月以降、何が起こる?
現状は、そうした運転手不足の状況を長時間労働で補ってきたが、24年4月以降はそれが不可能になる。これによって何が起きるか。小売、物流の動向に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、「当初段階では、物流企業間での運転手の奪い合いが激化し、賃金の上昇が生じるだろう」と予測する。賃金上昇は物流企業にとっては利益を圧迫する要因となり、「経営悪化に耐えられない企業は事業を継続できず市場から撤退することになりかねない。その結果、物流サービスの供給力不足はさらに深刻なものとなり、物流費はさらに上昇し、ユーザーが負担するコストも当然膨らむだろう」(高島氏)というのだ。
さらに高島氏は「極端な場合、輸送サービスを受けられないケースが生じる可能性もある」と指摘、「小売業界においては、ECやネットスーパーの配送頻度の削減や配送にかかる時間(リードタイム)が延びることも考えられる」と話す。物流のユーザーは、メーカーやリテーラーのほか消費者も含まれており、混乱は広範囲に及ぶことになる可能性が高い。流通業界関係者は、24年にそうした深刻な事態が起こり得るということを今のうちから認識しておく必要がありそうだ。
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