美しいままの地球をできるだけ次世代につなげていくために、世界の人たちが共通の目標とし て取り組んでいるのがサステナブルな社会の実現。そうしたなか、生産から販売、消費、廃棄までを通して環境に配慮したサステナブル商品の需要が高まっている。生活者のサステナブルな購買行動は徐々に広がっており、確実に日本でも浸透してきているといえそうだ。
SDGsの知名率は8割 環境への意識はますます高く
2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」。博報堂の「生活者のサステナブル購買行動調査2023」(調査期間23年2月27日~28日、対象者16~79歳の男女5156人)によると、「SDGs」について「内容を知っている」と答えたのは54%で、「内容は知らないが名前を聞いたことがある」まで含めた知名率は81.9%。緩やかではあるが22年から拡大している。年代別では10代が最も高く認知率は77.6%、知名率は91.2%となった。小中学校で「環境教育」が加わったことで、10代の環境に対する意識は高くなっているといえそうだ。そのほかの年代でもSDGsの理解が進み、すべての年代で認知率は5割、知名率は8割を超えた。
ニッセイ基礎研究所が23年8月に20~74歳を対象に実施した「生活者のサステナビリティに関わる意識調査」によると、日頃の消費生活におけるサステナビリティに(も)関わる消費行動として最も多かったのが「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」(73.8%)で、次いで「リサイクル可能なゴミを分別して出している」(57%)、「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買うようにしている」(51%)、「長く使える製品を買うようにしている」(45.7%)と続く。エコバッグの持参や詰替え製品の購入などプラスチックゴミが出にくい行動は浸透しつつある一方、価格よりもサステナビリティを優先して製品を選ぶ消費者はごく少数であることがわかった。物価高が続き、低価格志向が高まっていることがうかがえる。
生産地の環境問題にまで目を向け製品づくりに取り組む
メーカー各社は、サステナブルへの取り組みを加速させている。「ビジネスを通じて社会課題を解決」することをめざしているサラヤでは、これまでもさまざまなサステナブルな取り組みを行ってきた。日本経済の発展により、石油系洗剤による水質汚染が社会問題となるなか、生分解性に優れたヤシの実由来の植物性洗浄成分を使用した「ヤシノミ洗剤」を1971年に発売。手肌と環境にやさしい洗剤として、長年多くのユーザーから支持を集めている。また、82年には台所用洗剤で初となる詰替えパックを発売し、詰め替えて長く使ってもらえるように、インテリア性を意識したステンドグラス風デザインに一新した。
さらに「原料の生産地における環境問題に目を向けてこそ環境に配慮した製品である」という考えから2004年にパーム油の生産地でもあるマレーシア・ボルネオ島の森や動物を守る活動を開始。売上の1%を環境保全活動に還元する取り組みを行ってきた。05年には日本初となるRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟し、10年にはRSPO認証パーム油を使用した商品の販売を開始している。RSPOに加盟する企業は続々と増えており、カルビーや日清食品、エスビー食品などがRSPO認証パーム油に切り替えを行っている。
サステナブルへの取り組みはメーカーによってさまざま
明治では「明治プロビオヨーグルト R-1」ブランドで、ペットボトル容器の軽量化によるプラスチック使用量の削減に取り組んできたが、「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ低糖・低カロリー」の一部の工場製造品において、リサイクルPET樹脂を使用したペットボトル容器への切り替えを23年12月出荷分より順次開始。リサイクルPET樹脂は使用済みのペットボトルを活用するため、石油資源の使用量の削減が可能だ。
ブルドックソースでは、定番の四角い容器のソースを使いやすく、環境に配慮したものにリニューアル。容器プラスチック使用量を従来の20%削減し、ボトルにリサイクルPET樹脂を使用、ラベルにはバイオマスインキを使用した。
一方、アサヒビールでは、6缶パックにおける紙の使用量を大幅に削減した紙資材を使用した「アサヒスーパードライエコパック」を1都10県で発売。使用する紙の重量は350mlの6缶パックで65%、500mlの6缶パックで73%の削減を実現した。
「環境負荷の抑制」を重点課題のひとつに定めているJ-オイルミルズでは、プラスチック廃棄量やごみの量の削減、CO2排出量の削減に取り組んでいる。その一環として、食用油では珍しい紙パック(森林認証紙)採用でプラスチック使用量を約60%、CO2排出量を26%以上、ごみの量を約1/2削減した環境配慮型商品「スマートグリーンパック」を発売。21年秋に2製品を発売し、22年春にシリーズ化して、9製品にまでラインアップを広げている。環境配慮だけでなく使いやすさでも支持され、順調に伸長を続けている。同社では22年に続き、「スマートグリーンパック」シリーズの売上の一部を海洋・河川の環境保全に取り組む一般社団法人JEANに寄付した。同社では引き続き環境負荷低減に取り組んでいく考えだ。
プラスチック容器を捨てずに循環する社会へ
近年、ごみ問題への関心が高まるなか、「イトーヨーカドー横浜別所店」において、23年9月8日から12月6日の期間に、使用済みプラスチック容器の回収実証実験を実施した。同取り組みは、アールプラスジャパンに資本参加している12社による業界横断の取り組みとなっている。食品容器は、内容物の多様さや調理温度や保管温度などにより、さまざまなプラスチック材質が使われている。アールプラスジャパンは、プラスチック材質に左右されず、かつ効率よく元のプラスチック素材に戻すことができるケミカルリサイクル技術を開発中。今回の実験では、この技術への適応の可能性を探るため、これまで回収事例が少ないものも含めて、幅広い食品容器を回収対象としている。
一方、イオンは、25年までに、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」で展開する商品のすべてを、リデュース(削減化)、リユース(再使用化)、リサイクル(再資源化)のいずれか、あるいは複数に対応して開発を行った環境配慮3R商品に切り替えていく。容器包装をコンパクトにしたり、石油由来のプラスチックをリサイクル素材や紙などにするといった、循環型社会の実現に向けた商品として訴求する。
サステナブルな世界は、私たちの日々の選択から始まる。サステナブルな意識をさらに浸透させていくためには、最も身近な小売業の売場での取り組みが重要になりそうだ。