米国ハードディスカウンター決戦! アルディは3000店目前、リドルはブランド再構築へ
経済環境の変化を背景に快進撃を続けるアルディ(Aldi)は、「この好機を逃すまい」と出店を加速させ、米国食品スーパー(SM)業界でさらに存在感を高めている。
一方、店舗数が伸び悩むリドル(Lidl)は経営体制を刷新し、自社ブランドの再構築に乗り出した。店舗数が2500を超えるアルディと200にも満たないリドル。同じドイツを出自とし、同じハードディスカウンター(HDS)という業態でありながら、出店面では対照的な状況にある2社の戦略を解説する。
アルディ
25年度は過去最多の出店に店舗網拡大を急ぐ理由
全米で2527店舗(25年5月22日時点)を展開するアルディは24年3月、28年度末までに90億ドルを投資し、さらに800店舗を新規出店する計画を発表した。25年度は225店をオープンする予定で、1976年に米国に上陸してからの約50年間で最多の出店数となる。プレスリリースによると、24年度は120店舗をオープンし、新たに1900万人の顧客を獲得したという。

同社はコロナ禍前後も順調に売上・店舗数を伸ばしているが(図表❶)、今年は出店スピードがおよそ倍になる。この計画を達成するため、24年3月に老舗食品スーパー(SM)ウィン-ディキシー(Winn-Dixie)などを保有するサウスイースタン・グローサーズ(Southeastern Grocers)から400店舗を買収し、うち約220店舗をアルディに転換。不要な約170店舗は売り戻すという荒業を見せた。
ここまで出店を急ぐのには理由がある。まず、経済環境が非常に有利な局面にあることだ。食品価格の急騰が始まってすでに約3年が経過し、そのうえトランプ政権への交代で国民の家計防衛意識が高まっていった。
その結果、高級SMの顧客層の一部がウォルマート(Walmart)に、ウォルマートの顧客がアルディにシフトするという動きが起こった。そして、安値な商品を追い求めるうちに「HDSの商品でも十分においしい」ことを知ってしまったのである。これにはネットスーパーの浸透による環境変化も大きく影響している。消費者は容易に価格比較し、商品の試用を自宅で気軽にできるようになった。
「むしろおいしい」PBインフレで再評価へ
また、アルディの「DS+小型+ネットスーパーも完備」という事業モデルが、ウォルマートだけでなく、コストコ(Costco Wholesale)やサムズクラブ(Sam’s Club)などのホールセラー、あるいはダラーストアなど、あらゆる業態の脅威になってきている点にも注目したい。
従来、小型店舗でプライベートブランド(PB)比率が80%以上あることは、品揃えの幅とブランドのバリエーションが限定的になる点でデメリットだと認識されていた。
しかし、「アルディのPBは悪くない。いや、むしろおいしい」という認識が浸透してきたことで、マイナスの印象が払拭されつつある。そうした影響もあるのか、最近アルディにシフトした若年層は多い。彼らはどこに何があるかわかりやすく、時間がかからない小型店でのショッピングを便利だと感じているようだ。
小売店の体験レポートで定評あるニュースサイト「ビジネスインサイダー(Bussiness Insider)」は「コストコは好きだけれど混雑で駐車が大変なのでアルディに救われている」というタイトルの記事を出したが、これは筆者も実感している内容だった。
小型店が多いアルディは出店コストが低く、オープンまでのスピードが速いという強みがある。これを生かして店舗網を増やせば、ネットスーパー事業の拡大に弾みがつく。同社にはECで急成長を遂げるための条件が揃っている。今こそ千載一遇のチャンスだと言えるだろう。
ほぼ同じ「DS+小型店」フォーマットであるダラー・ゼネラル(Dollar General)、ダラー・ツリー(Dollar Tree)などのダラーストアがアルディの競合店と想定されるが、これらのチェーンが展開する食品はまだクオリティとバラエティーを求める中間所得層に訴求できるほどの魅力がない。
また、現金で決済する低所得者が主要顧客であるため、ダラー・ゼネラルのEC売上高構成比は23年度が0.7%、24年度は1.0%で実店舗の売上に大きく依存している。さらに、同社は都市商圏を中心に不採算店舗の閉鎖を進めており、25年度は575店を新規出店する一方で96店舗を閉店する予定だ。
ラスベガスに進出、3000店舗が目前に
アルディはただ店舗数を増やしているだけではない。25年3月、同社は
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